大事な人とのおそろいの指輪
大学にて。
杏哉は女友達3人と昼食を食べていた。杏哉と一緒に昼食を食べる人は毎日同じというわけではなく早い者勝ちだ。虎視眈々とその座を狙っている人が多くいるという。杏哉はどうでもいいと思っているので、一番最初に声をかけてきた人と昼食を食べることにしている。
「今日のお弁当も美味しそうね」
「ありがと」
「自分で作ってるんだっけ」
「そうだよ」
「大変じゃない?」
「まったく大変じゃないよ」
当たり障りのない会話。どこまで踏み込むか。杏哉の周囲の人間は牽制し合いながら、ラインを慎重に見極めながら会話を進めていく。
「ねぇ、杏哉くん。その指輪どうしたの?」
そう1人が質問した。これはみんなが気になっていたが、聞くのを躊躇していたことだ。知りたいのだが、万が一にも恋人とか言われたらどうしようなどと思って質問できなかったこと。杏哉に恋人がいてもおかしくはないが、まだ杏哉には特別な存在いないと信じたい人が大勢いる。
杏哉はそんな心情を知る由もないので杏哉はいつもの会話の調子でサラッと爆弾を投下した。
「この前買ったんだ。大事な人とお揃いの指輪だよ」
一緒に昼食を食べていた人たちはもちろん、聞き耳を立てていた人たちにも衝撃が走った。
「……大事な人って、恋人?」と1人が躊躇いがちに質問した。心のどこかで「違うよ」と否定されるのを望みながら。だが、その希望は簡単に崩れ去った。
「まあ、間違ってはないよ」
そう言って杏哉は指輪に目を落とした。その表情は見たことがないほど柔らかく、どれだけ相手のことを大事に思っているのかが残酷なほどはっきりと伝わってくる。
杏哉の表情を目の当たりにした人たちは、これ以上指輪について質問することができなかった。これ以上誰かを思い浮かべながら愛おしそうな表情を浮かべる杏哉を見たくない。
これ以上杏哉の恋人について詮索しないでおこうと考える人間がいる一方で、杏哉の恋人を見つけ出してやろうと決意するたくましい人間も少なからずいた。
生きていくために必要不可欠な存在だけど大嫌いな恋人との日常 ネオン @neon_
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- INGEN専門ジャンルはSF、スペースオペラ、戦記、群像劇。硬派になりたいお年頃。 【作者略歴】 超僻地要塞四国島出身。 愛媛みかんの国に生を受け三十年。うどん、鰹節、すだちの国の民と血で血を洗う戦いを続ける。 従軍記者として5年勤務。勤務中、膝に流れ手榴弾を受けて退職。 みかんの山に首まで埋もれていたある日、「俺、戦記書くわ」と一念発起。現在に至る。 現在は超修羅要塞九州島で傭兵として活動中。修羅の国の人ではない。 (※このプロフィールのどこまでが真実かはINGENまでお問い合わせください。)
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