5月5日 三つの石が付いた指輪

「あいと、おはよー」

 ベッドの上で上半身を起こしている杏哉は、背を向けて寝ている藍斗を起こした。藍斗はゆっくりと目を開けると、眠そうに声を発した。もちろん、2人とも何も身につけていない。

「……ねみぃんだけど、今何時」

「えっと、10時」

「朝?」

「もちろん。あ、そうそう、渡したいものあるんだけど」

「今か?」

「もちろん」

「服は?」

「いらないでしょ」

 藍斗はゆっくりと体を起こした。杏哉は左手を伸ばして、サイドテーブルに置いてある小さな、碧色の長方形の箱を取った。

「これあげる」

「あー、なんとなく予想ついたわ」

 杏哉の手にある箱を視界に入れた藍斗は、その箱の中に何が入っているかすぐにわかった。箱の見た目と今日の日付、5月5日を考慮するとすぐにわかった。

「碧葉《あおば》の誕生日だもんな」

「そう、碧葉の誕生日だから、これ、頼んでおいたんだ」

 そう言って杏哉はパカっと箱を開けた。そこには、淡いオレンジ、綺麗な青緑色、濃い青色の3つの石が並んだ指輪が3つ。

杏色あんずいろ碧色みどりいろ藍色あいいろの石付けて、って言ったんだ。どう?」

「悪くない。高そうだな」

「まあ、それなりにかな。オレ、貯金たくさんあるけど、ここまでの出費は初めて。指輪も箱も特注だから高くなったのかも」

 杏哉は指輪を一つ取り出すと、自分の左手の薬指につけた。杏哉はもう一つ、指輪を取り出すと、今度は、藍斗の左手を取って、薬指にはめた。サイズはピッタリ。寝てる時に測られたな、と藍斗は思った。

 一つ指輪が残った箱を閉じると、サイドテーブルの引き出しから、白い箱を取り出した。その蓋を開けると、中には手紙が3通と、藍色のピアス1つと杏色のピアス1つが入った小瓶が入っている。そこに、碧色の箱を入れて、再び蓋を閉め、引き出しに戻した。

「それ、外すの禁止ね」

「外でもか?」

「もちろん」

 藍斗は嫌そうに顔を歪めた。

「最悪。ぜってー、お前の取り巻きどもに絡まれるわ」

「大変だね〜」

 他人事のように言う杏哉に、藍斗は舌打ちをした。杏哉は指輪をつけることで、恋人がいることを取り巻きに信じさせて、藍斗にお揃いの指輪をつけさせることで、面倒ごとに藍斗を巻き込もうとしている。きっと杏哉のことが大好きな女子や男子たちが、藍斗に絡んでくるだろう。ただでさえ、面倒だと思っている大学が、より一層、嫌になった。

「あ、そうそう、オレ、ケーキ取りに行かなきゃいけないから、ちょっと出かけるね。帰ったらハンバーグ焼くから、それまで寝てていいよ。安心して、ハンバーグ昨日の夜作って冷凍しといたから、あと焼くだけ。すぐ出来るよ」

「服」

「隣のベッドの上に置いとくよ」

 藍斗はベッドに横になり、すぐに眠りについた。寝られるうちに寝なければ。

 杏哉はベッドを降りると、服を着て出かけて行った。

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