ゴムの日
「ねえ、今日は、ゴムの日だって」
「それがどうした」
「だから、ゴムの日なんだって」
「うるせぇ、なんだよ。しつこい。邪魔だ。うざい。なんもしねぇならどけ」
現在、ベッドの上で、杏哉が藍斗を押し倒している。もちろん、服は着ていない。仰向けに寝る藍斗と、上にいる杏哉の顔の距離は必然的に近くなる。
「まだなんかするし、まだまだ終わらないよ」
「なら、早くしろ。正気のときにお前の顔なんて見たくねぇ」
顔を見たくないといいつつも、杏哉から顔を背けない藍斗。
「正気って、お前、いつ正気?」
「少なくとも、お前よりはな」
「いやー、お前のがヤバいでしょ」
「は? どこがだよ」
藍斗は杏哉をきつく睨みつける。
「まず、特に理由もなく死ねるでしょ。あと、嫌いな奴に抱かれてるってとこ?」
「お前だって、嫌いな奴だいてるじゃねぇか。あと、大嫌いで目障りな人間の世話をしてる。お前のが狂ってるわ」
恋人同士がベッドの上で交わすとは思えない会話が繰り広げられる。
「お前のためじゃないから」
「わかってるわ。俺のためにお前が行動するなんて死んでもあり得ねぇだろ」
「そんなの決まってるじゃん。って、そんなことよりも、ゴムの日」
杏哉は話を本題に戻した。
「それがどうしたんだよ」
「それがね、ベッドの下の引き出しに大量にあるんだよ」
「それは知ってる。使わねぇことも多いからあんま減らねぇのも知ってる。あんま減ってねぇのに、一か月前に大量に増えたのもしってる。なんでだよ」
「そう、それが問題なんだよね。増えた理由はね、少し前に知り合ったというか、一方的に好意を向けられただけなんだけど、ちょっとヤバい女の子がいて、そのちょっとヤバい女の子が、俺の家だと思ってるノアとレオの家に送り付けたの。だから、こうなった」
ベッドの下の引き出しには大量に箱が入っていて、今にもあふれ出しそうだ。
「なんであいつらの家?」
「半年前くらいのことなんだけどね、俺の家に来られるの嫌だから、家に帰るふりして、ノアの家に帰って、そのあとに、気づかれないように自分の家に帰るのを何回か繰り返したの。そしたら、あとつけられてる気配なくなったから諦めたかなって思ったら、ゴムが大量に送られてきた。サイズはぴったり。怖いでしょ」
全く怖がるそぶりも見せず、雑談と同じトーンで話す杏哉。ストーカーごときでこわがる精神構造をしていないのだ。なぜなら、ストーカーには慣れっこだからだ。たまに刺されそうになることもあるので、直接手を出してこないから基本的には放置している。
「その女の願望だろ。で、その女どうした」
「多分消えたんじゃない? 知らないけど。ノアが『今度からお金取るよ』って言ってた。オレが頼んだわけじゃないのに」
「お前の思惑通りに物事が進んだと」
「さて、というわけで、ゴム消費しよう!」
嫌そうな顔をしている藍斗が何か文句を言う前に、杏哉は口を重ねて、舌の自由を奪った。キスで黙らせるのは杏哉の常套手段ということを知るのは藍斗だけだろう。
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