藍斗の活動
夕食を食べ終わった後。
「ねえ、藍斗、配信してよ」
「断る」藍斗は間髪入れずに答えた。
「検討の余地は?」
「ねぇよ。何度目だよこれ」うんざりした様子で藍斗は言った。
藍斗は『リーフ』と言う名前で動画投稿をしており、登録者は60万人にも上る。『リーフ』の投稿動画は全てダンス動画。歌も自分で歌っている。『リーフ』の視聴者の中には、彼の歌声だけでなく喋り声も聞いてみたいと言う人や、もっと彼自身について知りたいと言う人もいて、配信をすれば必ず人は集まると想像できる。だが、藍斗は面倒くさがって一度も配信どころか、動画投稿以外のSNSでの発信を一切したことがない。
「あのさ、稼ぐなら今だよ。お前が働きたくないのはわかってる。だからこそ、人気があるうちに配信とかして投げ銭もらっときなよ。それで貯金しとけばいいじゃん」
「お前が稼ぐからいいだろ」
「そうだけどさ、未来は何があるかわからないでしょ。蓄えはあればあるだけいいんだよ。それに活動するにもお金が必要でしょ。機材って結構高いんだよ」
「あれはお前が勝手に買ったんだろ」
2人が住む家の防音室には、配信や動画投稿がしやすいように、いい値段のするパソコンや、マイク、カメラがある。それらは全て杏哉が買い揃えたもので、それらは杏哉の『リョク』としての活動で得た資金を使って買ったものだ。
「そうだけど、お前も使ってるよね。結構高くて、貯金減ったんだ。だから、お前にも稼いでおいて欲しいの。ただコメント読んでしゃべるだけでいいからさ。月一くらいでやってよ」
「ヤダ。めんどい」藍斗は考えるそぶりも見せずに即答。
それでも杏哉は諦めることなく、言葉を続けた。金はいくらあっても困らないし、いつまでも人気が続くわけではないので今のうちに稼げるだけ稼いでもらいたい。
「めんどくさくないよ。本名言わないことと、身バレ気をつけることと、住んでる場所さえ特定されなければ、何話しても大丈夫。お前って、本当に何も知られてないでしょ。それが魅力って言われればそうだけど、お前について気になってる人もいるのもまた事実なの。だから、少しの情報開示でも、喜ばれるわけ。30分だけでいいからさ、やってみてよ。オレが全部設定するからさ」
「パソコン開かなきゃなんねぇのかよ」
藍斗は面倒くさそうにしているが、即拒絶されなかったので、杏哉はチャンスだと思ってさらに言葉を続けた。藍斗が話を聞いているうちに何とか説得しなくてはいけない。
「大丈夫、スマホからもすぐにできるから。簡単だし、短時間でいいから。ちょっと空いた時間にでも、月に一回くらいでいいからね」
「……わかったよ。お前が何度も同じこと言ってくるのうぜぇからな」
しぶしぶといった様子だが、藍斗は配信をすることを了承した。
「じゃあ、さっそく、明日やってみて。何時でもいいよ。適当にやってみて。人集まるから」
「はいはいわかったよ」
藍斗は、明日、初配信をすることになった。
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