リーフの初配信

「えっと、ついたか? うわ、なんか、文字がたくさん流れてる。マジで人集まってんじゃん。えっと、五万? 多いのか? どうでもいいか。つーか、コメント早すぎて読めねぇ。なんか色着いたコメントも多いし。コメントよみゃいいっつっても、これ大変じゃん」

 『リーフ』のチャンネルの初配信。視聴者数は開始数分で五万人を軽々と超えた。配信の待機所ができたとき、ネットは大いにざわつき、見事、『リーフ初配信』がトレンド一位になった。ネットは驚いている人や現実を信じられない人、ものすごく喜んでいる人であふれていた。そんなファンたちのお祭り騒ぎを全く知らない『リーフ』こと藍斗はいつものローテンションで、いつもの口の悪さのまま、緊張もせず、普段どおり話始めた。藍斗が話始めると、チャット欄は、「リーフがしゃべった!」ということに謎の感動を覚えていた。もちろん、藍斗はそんなことに気づかない。藍斗の頭は「めんどくさい」でいっぱいだ。

「えっと、自己紹介しろっつってたな。俺の名前は、リーフだ。ダンス踊ってる。歌も歌ってる。そんくらいだ。なんかコメントしろ。話す。コメント呼んで話せばいいらしいからな」

 高速で流れるコメントたち。文字の滝に圧倒される。

「……『なんでリーフって名前なんですか』ねぇ、言わねぇよ。『なんで動画投稿し始めたんですか』、頼まれたから。『イベントでないんですか』、めんどくさいし、顔出したくねぇ。……『顔出さなくても大丈夫』、それでも人と関わりたくねぇ。『いくつですか』、大学生。『好きな食べ物は何ですか』、ゼリー。『好きな色は』、緑。『休日何してますか』、ダンス。寝る。『外出嫌い?』、めんどう。なあ、こんなこと聞いて、楽しいのか?……ふーん。わけわからん。……『推しとかいないんですか』、いねぇ。他人にきょーみねー。『なんで配信したんですか』、やれって言われたから。しょーがなく。あいつ、しつこくて、うぜーから」

 コメント欄の流れが一層早まる。

「『彼女ですか?』ちげーよ。俺にかのじょはいねぇ。……しつけぇ、いねえもんはいねぇよ。『誰に配信しろって言われたの?』、同居人。不本意ながら同棲してる奴」

 再びコメントの流れがすごいことになる。たとえガチ恋じゃなくても、推しに恋人がいるかもと思うと穏やかではいられないファンの気持ちが、藍斗にはさっぱりわからない。

「『やっぱり恋人いるんじゃないですか』、いるけど。『さっきいないって言ってましたよね』、彼女いないし。『彼氏?』、そうだけど」

 藍斗は淡々と事実を述べていく。淡々と述べられる内容に、リスナーたちのざわつきは一層強まった。

「『それ言っていいの?』、よくね? 身バレしなければいいらしいからな。ほんみょーとか、住んでる場所ばれなきゃいいらしい。『ノロケありますか?』だ? あるわけねぇだろ。『好きじゃないんですか?』、ああ、嫌いに決まってる。あんなめんどくさいやつ。……『なんで付き合ってるんですか』、利害の一致。『嫌いな人間と一緒に住めなくない?』、だよな。わかる。……『なんで、一緒に住んでるの』、面倒ごとが減る。そんなに気になるか? 俺の、……恋人。『なんで間があるのww』いい慣れてねぇんだよ。……『友達いないの?』、いねぇよ、今はな。『今はって今後つくる予定あるんだ』、ねえよ。面倒ごと増やしたくねぇんだよな。『リーフってイケメン?』、知らん。……ああ、でも、寝てれば顔だけはいいって言ってたな。自分の顔なんてどーでもいいな。『恋人はイケメン?』、そうだな。じゃなきゃ、あんなに女よってこねぇだろ。……『嫉妬ですか?』、んなわけねぇだろ。あいつがどこで何してようとどーでもいい。……つーか、なんであいつのことばっかなんだよ。……『次の動画いつですか?』、動画出来上がったら。どうせ月末だ。……『なんで自分で歌うんですか?』、歌った方がいいって言われたから。『歌いながら踊るの出来ますか?』、できる。『投げ銭のコメント読みますか?』、読まねぇ。投げ銭なんて、俺にしても無意味だぞ。コメント読まれたくて投げてんなら特にな。『活動に使ってください』って、別に金に困ってねぇし。恋人の野郎が稼いでるからな。なあ、こんくらいでいいか? もうやめるわ」

 ここでブチっと配信が終了した。

 ちなみに、『#リーフ初配信』という杏哉が考えたハッシュタグは見事トレンド一位に輝いた。配信の待機場を作ったのも杏哉で、リーフのSNSアカウントを作ったのも杏哉、運営しているのも杏哉だ。

 それはさておき、藍斗の初配信は大いに注目を集め、成功したと言えるだけの集客と集金が出来たのであった。藍斗は一切興味ないようだが。


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