回想:レオとの出会い

 高校2年生の5月。杏哉と藍斗は閉店後の『約束』にいた。カウンター席に座る杏哉と藍斗は無言で、横で繰り広げられる会話を聞いていた。

 カフェの入り口付近で、ノアとレオが立って話している。

「おかえりなさいませ、レオ様。仕事はいかがでしたか?」

「完璧に終わらせた。報告は任せた」

 いつもは好青年ぶっているノアが、非常に丁寧な話し方で恭しい態度を取っている。執事のような対応を取るノアを、当たり前のように受け入れ、なおかつ、主のように偉そうな態度をとるレオ。

 目の前で繰り広げられる主従関係のようなものを横目で見ていた杏哉と藍斗は、嫌なものを見たという感じでスッと目をそらした。耳をふさぎたがっている2人の様子なんて伝わるわけもなく、会話は続く。

「わかりました。明日、依頼人に連絡しておきます」

「ああ。それと、そこにいるのは誰だ?」

 レオの視線が向いたことに気づいた杏哉と藍斗はため息をこらえた。

「申し訳ありません、紹介が遅れました。髪が明るい方が杏哉、その隣が藍斗です。挨拶させますか?」

「いや、いい。俺はもう寝る」

「わかりました。おやすみなさい」

 恭しく頭を下げるノア。レオはカフェの外に出て行った。

「あ、ごめんごめん。お待たせ」

 ノアはさながら好青年のような笑顔で気さくに2人に話しかけた。切替が早い。

「きも」藍斗は吐き捨てた。

「わかる」杏哉はすぐに肯定した。

「なにが?」

 カウンターの中身戻ってきたノアが笑顔で問いかけた。

「さっきのなんだよ」

「ああ、さっきのは、レオ様。一応、俺の主様だよ」

「意外だね。ノアが、誰かに仕えるような人間にはみえないな。だって、お前、金にしか興味ないって言ってたし、まだ数回しか会ってないけど、本当に、金にしか興味ないことはよくわかってるからね」

 ノアが金にしか興味ないことは、初めて会った日に、ノア本人が話していた。さらに言えば、ノアは自分に利益があることにしか興味を抱かないし、利益がないとわかるとすぐに切り捨てる。ノアが2人に声を掛けた理由は、喧嘩の強さを知って、仕事に使えそうだったからだ。そして実際にバイトをさせて、杏哉と藍斗が使えることが証明されたので、閉店後のカフェに来ても嫌な顔一つせずに対応している。

「杏哉くんの言う通りだけどね、昔々のその昔、いろいろあって、レオ様がレオ様でいる限りはお仕えしますよ、みたいな約束したからね」

「嫌じゃねぇのか?」

 藍斗の疑問にノアは「まったく嫌じゃないよ」と即答して、ニヤッと口角を上げた。

「だって、あの子、面白いんだよ。杏哉くんみたいに取り繕ってるんだ、あの子。さっきの偉そうな感じのは、演じてるだけ。ホントウのあの子は、俺に捨てられることを恐れてる、弱虫。態度と中身のチグハグさが見てて面白くてさ、壊れるまでは観察するって決めてるから」

「きも」

「わかる」

「えー、ひどいな。杏哉くんも藍斗くんも、俺と同じようなもんでしょ」

「「それはない」」

 2人は即座に否定した。声がはもったことは気に食わないが、ノアと一緒にされるのは、それ以上に気に食わなかった。自分はそこまで性格終わっていない、と少なくとも2人は思っている。







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