イライラしてる杏哉
藍斗は目を覚ました。杏哉に起こされたのではなく、自然に。時計を見ると、時刻は午前十一時過ぎ。ため息をついた。ゆっくりと体を起こすと、静かにベッドから降りて、物音を立てないようにリビングへと向かった。
杏哉はテーブルでパソコンを開いていた。ノートや参考書を並べていることから、大学の課題でもやっているのだろう。藍斗は、忍び足で冷蔵庫へと進む。なんとか杏哉にバレずに目的地へ到着したが、アイランドキッチンのため、冷蔵庫を開ける音で気づかれてしまうことは明らかだ。少し躊躇った後、寝起きで喉がカラカラだったし、お腹も空いているので、諦めて冷蔵庫の扉をバッと開けた。中は綺麗に整頓されていて、十数個ありそうなゼリー飲料もまとまっていた。しっかりと賞味期限が早いものが手前に置いてある。
「藍斗、起きてたんだ」
案の定気づかれた。適当に返事をして、藍斗はゼリーとペットボトルのお茶を取り出した。お茶を飲みながら、ゼリーを飲む。
杏哉はパソコンを閉じて、机の上に広げていたものをまとめた。
「俺のことは気にすんな。勉強してろ」
「大丈夫。終わってるから」
藍斗は小さく舌打ちをした。杏哉は何も言わず、ただ藍斗を見ている。普段通りの意図的に作られた笑みで。藍斗は視線を気にしながらも、食べ終わるまでは、文句を言うのを堪えた。
藍斗は飲み終わったゼリー飲料のゴミをゴミ箱に捨てた。そして、杏哉のほうを向いた。
「気色わりぃ。どっか行け」
「今日、出かける予定ないんだよね」
「知るか。じゃあ、俺が出てく」
藍斗は寝室に戻ろうとした。いつもよりも歩く速度が自然と早くなる。だが、目的地に着く前に腕を掴まれた。杏哉に。藍斗は杏哉に視線を向けないまま口を開いた。
「なんだよ」
「今日家出るの禁止ね」
「明日もだろ」
「正解。なんでわかったの?」言葉とは裏腹に驚いた様子はない。
「それくらいわかるわ。お前、今日、機嫌悪りぃだろ。朝、俺を起こさなかったもんな」
「それだけで?」
「あと、俺が寝室から出てきたのに気づかなかったし、遅く起きても文句言わなかった」藍斗は杏哉の方を向いた。「あと、その気色悪い笑顔。いつもに増して作り笑い感やべぇぞ」
「よく見てんねぇ。やっぱ、オレのこと好きなんじゃん」茶化すように言った。
「大嫌いだわ。いや、好きっつった方がいいか?」藍斗は口の端をあげた。すると、杏哉は微かに顔をしかめて、「無理」と即座に拒絶した。
藍斗は嘲るように鼻で笑った。
「じゃあ言うなよ」
「うるさい」
杏哉がいつもより短気だ。藍斗は諦めて、されるがままになることにした。
「なあ、俺、動画の編集しないといけねぇんだけど」
「オレがやってやるから」
「おとなしくついてってやるからそんな腕強く掴むんじゃねぇよ」
藍斗の腕を掴んでいる手が、ほんの少しだけ弱まった。藍斗は杏哉に引っ張られるままに寝室に連れ込まれた。
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