ベッドの上で過ごす一日
「……みず」
ベッドの上にうつ伏せになっている藍斗は掠れた声を発した。同じベッドに仰向けに寝ていた杏哉は上半身を起こすと、左手を伸ばしてサイドテーブルに置いてあるペットボトルを取った。ちなみに、二人とも何も身につけていない。
「起きて。飲めないよ」
藍斗はだるそうに上半身を持ち上げると、右手で水を受け取り、ゴクゴクと飲むと、杏哉に返した。
「なあ、何時だ」
杏哉はサイドテーブルに置いてある時計を確認した。
「えっと、午後の四時」
「うわ、一日終わった」
「まだ八時間あるよ」
「は? もう終わりだバカ」
杏哉はニコニコしている。藍斗は思わず舌打ちをして、ベッドに再びうつ伏せになった。寝不足かつ身体が怠い。動きたくない。起き上がりたくない。もう眠い。藍斗はうとうとし始めた。まぶたが重い。だんだんと意識が遠のく。だが、そのまま眠りに落ちることは叶わなかった。
「なんで寝てるの? さっき寝たでしょ。起きて〜」
藍斗とは違って元気そうな声色の杏哉。後もう少しで夢の世界に旅立てたはずの藍斗の肩を揺さぶって、現実世界に無理やり引き戻した。
「こまぎれの、すいみんは、ねたうちに、入らねぇ。もうねる。朝まで、ねる……」
藍斗はぼんやりとした口調でなんとか話したあと、まぶたを閉ざした。もう目を開けられないかもしれない。
完全に眠りにつこうとしている藍斗を気遣う様子もなく、杏哉はもう一度、藍斗の肩を揺さぶり、元気よく声を掛けた。睡眠時間は杏哉の方が短いはずなのに、なぜか藍斗とは比べものにならないほど、声色が明るい。
「まだ早いよ。まだ八時間あるってば。寝ないでよ」
「うるせー。ねる」
「なんで、今寝ても、変な時間に起きちゃうよ。まだ四時だし」
「よゆーで、あさまでねれる。どうせ、あした、あさ、はやくおこすだろ」
藍斗はベッドに突っ伏したまま、何とか聞き取れるくらいのへにゃへにゃした声で何とか主張した。
「うん。いつも通りに朝八時に起こすけど。大学あるし」
「ばか」
「しょうがない。じゃあ、十時には寝かせてあげるよ。そうすれば睡眠時間十時間取れるよ」
「おい、なんで、譲歩してやったんだから、ありがたく思え、みたいな空気出してるんだよ。ばか」
藍斗の声がだんだんとはっきりとしてきた。だが、相変わらずまぶたは閉ざされたままだ。
「罵倒の語彙力死んでるね。もしかして眠い?」
「ばか」
「『ばか』しか言わないじゃん。さて、十分休憩したし、もういいでしょ。脳みそ死んでそうだけど。ほら、起きて起きて」
「しつけー」
ぼやく藍斗を気にすることなく、杏哉はゴロンっと藍斗を裏返し、腹の上に乗りあげて、顔の横に両手をつくと、目を開けていない藍斗の顔を見下ろしながら、にっこりと笑った。
「容赦はしないよ」
藍斗はうっすらと目を開けて、舌打ちをしようとしたが、杏哉の舌に邪魔されて、舌を動かすことが出来なかった。
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