朝、せめて下着くらいは身に着けた方が良いよ

「きょーや、水」

 藍斗は眠そうに目をこすりながら、腰に手を添えながら、リビングに出た。何も身に着けずに。ものすごく眠いのだが、ものすごくのどが渇いたので仕方なく。

「あれ、早いじゃん。まだ、六時半くらいだよ。やっぱり寝かすの十二時でもよかったかな?」

「うるせーばか。つーか、お前、服着てねぇのかよ」

 藍斗は、キッチンの中にいる杏哉の足は見えないが、上半身は何も身に着けていない。

「ピアスつけてるんだから良くない? あと、パンツはちゃんと履いてるよ。見る?」

「見ねーよ。水くれ」

「はいはい。パンツくらい履いてきなよ。お前のベッドの方においてあるから」

「めんどくせー」

 藍斗はゆっくりと、腰を気にしながら寝室に戻った。杏哉はその間に、グラスに水を注いで、机の上に置いた。

 少しして、パンツをはいた藍斗が、リビングに出てきた。しっかりとピアスもつけている。藍斗は椅子に座ると、水を飲み干した。

「ねえ、藍斗。寝る? 食べる?」

「……たべる」

「りょーかい。二人分ちゃっちゃと作っちゃうね」

「なあ、腰イテーんだけど」

「へー。大変だね」

 気怠そうに机に突っ伏している藍斗に、杏哉は他人事のように言葉を返した。

「いや、おめーのせいだよ」

「へー。大変だね」

 藍斗は恨みのこもった目を向けるが、杏哉は料理の手を進めるばかりで、心のこもっていない、さっきと全く同じ言葉を機械のように返した。

「クソ野郎。ばーか。ばーか。ガッコ―行けねー」

「じゃあ、おぶってってやろうか」

「嫌だわバカ」

「じゃあ、担ぐ?」

「ありえない」

「えー、お姫様抱っこ」

「そういう問題じゃねぇんだよ。ったく、クソ野郎が。外で担がれるなんてたまったもんじゃない」

「えー、学校は連れてくよ。まあ、二時間目からだから大丈夫だよ」

 杏哉はどこまでも他人事だ。実際、杏哉の体はどこも痛んでないし、むしろ、調子がいいくらいなので。他人事でしかないのだが。

「大丈夫じゃねえよ」

 藍斗は睨み殺しそうなほどの鋭い視線を杏哉に向けた。

「お腹空いてるからイラついてるのかな? 確かに、昨日はゼリーしか食べてないもんね。お腹空いてるならそう言ってくれればいいのに。もう少しでできるから待っててね」

 藍斗は、苛立ちを自分の中から逃がすように、大きく息を吐きだした。ここで無駄な労力を使うわけにはいかない。今日の杏哉は、この上なく元気で、エネルギーに満ち溢れている。ただでさえ少ない藍斗の気力を根こそぎ奪い取ったといっても過言ではない。だから、いつもよりも杏哉の煽りがしつこいし、藍斗を苛立たせる力は倍増している。時刻はまだ午前七時前。ここで爆発したら、一日持たない。

「どうしたの? なんかあった?」

 藍斗は大きく舌打ちをした。

「ご飯できたから、机から腕と頭どかして、邪魔。あ、服着て来るから待っててね」

「俺のも持ってこい」

「わかった。まってて」

 苛立ちよりも寒さが勝った。

 





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