大学からの帰り道、二人の会話
大学の授業が終わり、藍斗と杏哉は二人、帰路に着いていた。時刻は午後6時過ぎ。毎週金曜日はいつもこれくらいの時間になってしまう。
「なあ、なんで今日、俺と帰るんだ? お前、最近ずっと取り巻きたちと帰ってただろ」
「嫉妬?」杏哉はからかうように言った。
「な訳ねぇだろ。知ってるか、今日、俺が、お前の取り巻きたちから凄い目で見られてたの。あれこそ本物の嫉妬だぜ」
杏哉と話したい人間は沢山いる。男女問わず。だから、朝、昼、授業終わりには、杏哉と話せる権利を虎視眈々と狙っている人間が少なくない。杏哉は天性の人たらしなうえに、人に好印象を持たれることを狙って行動していることもあり、タチが悪い。それだけなら藍斗には関係ないし、勝手にやってればいいと思う。
「へー、オレ、好かれてるね」
「どうだか。人気者に近づきたいだけの人間しかいねぇだろ」
「そう?」
「わかってんのに聞くんじゃねぇよ。御曹司くん」
杏哉はそこそこ有名な会社の社長の息子あり、跡取りでもある。人たらしにプラスで、御曹司という肩書きまでついているため、杏哉の周りから人がいなくなることはない。喧嘩していたことは隠しているし、たとえそういう噂が流れたとしても、広まることはない。なぜなら、『優しい杏哉くん』がそんなことするはずがない、妬みで嘘を言いふらしてる人間がいる、とほとんどの人間が考えてしまうからだ。ちなみに、藍斗にそういう噂が流れた場合、人々は秒で信じるだろう。人から持たれる印象は重要だ。それをわかっている杏哉は、言葉遣いを優しくすることと、他人に優しく好印象を抱かせるような行動を選ぶ。人付き合いが嫌いなくせに、人脈はあるに越したことはないと親に言われ続けてきたから、友達も多く、来るもの拒まずな姿勢を貫いている。
「八方美人野郎。機嫌悪くなるくらいなら、とっとと、その気持ち悪い作り笑いやめろ」藍斗は杏哉の顔を見ることなく言った。
「みんなこういう顔が好きなんだよ。お前くらいだよ、そんなふうにいうのは」杏哉はうっすらと優しい笑みを浮かべたままだ。
「心配なの?」
「うっざ。ちげーよ。お前の機嫌が悪くなるたびに、お前は、俺にあたるだろ。メイワク」
杏哉はストレスが溜まると、藍斗にぶつける。藍斗だけが、杏哉にとって好かれなくてもいい、嫌われてもいい存在。むしろ、好意を向けられたら気持ち悪くて無理な存在なのだ。
「お互い様でしょ」
「まあ、それはそうだな。でもな、俺は、なんもしてねぇのに、お前の取り巻きにキモい感情向けられてるんだぜ。巻き込むな」
「無理だよ。これから巻き込む予定だから」
杏哉取り巻きたちに絡まれる日も遠くなさそうだ。藍斗は大きく舌打ちをした。
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