人気のカフェでデート

 藍斗と杏哉は閉店後のカフェ『約束』にいた。

 カフェ『約束』は超人気店で、人が絶えない。営業時間は午前10時から午後3時まで。定休日はなく不定休。特に、休日は若い女性で溢れていて、連休ともなると、全国から人が集まる。

 人ごみが嫌いな藍斗と、女性に話しかけられたくない杏哉は、営業中の『約束』に訪れることはない。好き好んであの場所に寄りつく気持ちがわからないのだ。

 杏哉と藍斗は並んでカウンター席に座り、目の前でノアが料理を作っている。

「藍斗くん、バイト、ありがとな」

「ただの暇つぶしだ。つーか、お前のせいだ」

「俺?」

 突然矛先が向いて驚いたように聞き返すノアに、藍斗は舌打ちをした。

「白々しい。わかってるだろ」

「えー? 俺が杏哉くんにバイト頼んだ結果、そのストレス発散に付き合わなきゃいけなくなったとか?」

 わざとらしく疑問形で藍斗に問いかけるノアに、杏哉は少し噴き出した。藍斗はイラついたように舌を打った。

「よかった。杏哉くんにバイト頼んで。人手不足だったから助かる」

 好青年のような笑顔で感謝を述べるノア。藍斗は小さく舌打ちをすると、ノアから目をそらした。

「藍斗、ノアに突っかかるなんて無駄だってわかってるでしょ。あのノアだよ」

「うるせぇ。わかってるわ、そんくらい。ノアが、好青年ぶった、金にしか興味がない、ずる賢い、腹黒狸だってことは」

「えー、ひど。俺、イケメンで好青年だよ。狸みたいに丸くない。それに……」

 突然、店の入り口のドアが開き、一人の男性が入ってくる。背はそこまで高くなく、顔は少し童顔気味の彼は、ずかずかと店内に入っていくと、藍斗の2つ隣の椅子に、我が物顔で座った。その途端、ノアのまとう雰囲気がガラリと変わった。親しみやすい好青年から、執事のように恭しい青年になった。

「おかえりなさいませ、レオ様。もうすぐでお料理ができるのでお待ちください」

「ああ」

 レオは貴族のように尊大な態度をとった。ノアもそれを当たり前のことのように受け入れている。

 ノアはレオから目を離すと、好青年に戻り、杏哉と藍斗に接した。

「そうそう、さっきの続きだけど、俺は、金以外にも興味あるよ。今は、だけどな」

「そこ以外は否定しないんだね」

「だって否定できないし」

 杏哉とノアが話している横で、藍斗は興味なさげにスマホを取り出した。藍斗がなんとなく横目でレオのことを見ると、わずかに口角が上がっているのが見えて、気づかれないうちにスマホに目を戻した。ノアの『金以外にも興味あるよ』という言葉が嬉しかったのを表に出さないようにしているのだと容易に想像がついた。金以外にも興味がある、つまり、レオへの興味はまだ失われていないということになる。レオとノアの関係は複雑なのだ。

 閑話休題。

 藍斗と杏哉の『約束』でのデートはいつもこんな感じだ。デートという感じはなく、ただカフェで食事をするみたいな感じだが、二人はこれをデートとみなしているのだ。







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