藍斗の服を増やしたい杏哉
休日の午前中。杏哉はソファに座った。先に座っていた藍斗は、嫌そうに思いっきり端の方に寄った。
「そんなによけなくても、今日は何もしないよ」
「信用できねぇ」
「お前に用があったの。お前の服少なすぎるから、買いに行こうよ」
「やだ」
藍斗は即座に拒否した。
杏哉としては、藍斗にもっと服のバリエーションを増やしてほしいのだ。藍斗が現在所持している服は上は黒のパーカー、下は黒いズボンのみ。それぞれ三着ある。一応藍斗は恋人なので、もっとおしゃれをしてほしいというか、せめて、毎日同じ服を着るのはやめて欲しい。
「ねえ、夏、服どうするの? お前、長袖のパーカーしか持ってきてないよね」
「……考えてなかった。適当に服買ってきて」
「やだ。一緒に行こうよ」
「俺、行く必要あるか? 勝手に買ってくればいいだろ」
藍斗は服を買いに行ったことがない。ネットで黒いパーカーとズボンを、三年前くらいに買ったのが最後。自分で店に行って選んだことがない。わざわざ外に買いに行くのが面倒なのだ。服に無関心だから、実物を見て買いたいとか、生地へのこだわりとかいうものは、これっぽっちもない。派手すぎ服なら、文句を言わないで何でも着る。
「サイズ同じだろ。背、ほぼ同じだし。適当に、お前が買ってくりゃいい」
「文句言わない?」
「変なのじゃなけりゃ言わねぇ」
「ほんと?」
「ああ」
「わかった。じゃあ、提案ね。お前の服とオレの服わけるの面倒だから、混ぜちゃっていい?」
これが杏哉の一番話したいことだった。服を買いに行こうと藍斗を誘っても、断られるは想定内。藍斗が服に興味関心が無いのはわかっている。杏哉が一人で藍斗の服を買いに行く流れになることも予想済み。身長はほぼ同じ(杏哉の方が一センチ高い)。それならば、いっそのこと、服を共有すればいいのではないか。そうすれば、杏哉は罪悪感なしにたくさんの洋服を買うことができるし、恋人に毎日同じ服を着せずに済む。一石二鳥。
「いいぜ。別に。お前が毎日俺の服を選ぶっていうならいい」
藍斗は興味なさげに、すんなりと杏哉の提案を受け入れた。服なんて本気でどうでもいいのだろう。
「もちろん。それくらいはするよ」
「たくさん服買えてラッキーとか思ってるんだろ。どうせ」
「よくわかってんじゃん。やっぱオレのこと好き……」
「じゃねぇよ。うぜーから早くどっかいけ」
「はいはい。じゃあ、さっそく服買いに行ってくるねー」
上機嫌で杏哉は出かけて行った。
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