知り合いが全くいない藍斗

 藍斗は基本的に一人だ。友達がいないどころか、ほとんど誰とも話さない。面倒だし、そもそも、藍斗の近くに人は寄ってこない。杏哉とは対照的に、近寄りがたい雰囲気を持っている。目つきが悪く、無愛想。高校の時には、喧嘩しているという噂があった。進んで話しかけようとする人間はいないのだ。もし、藍斗に話しかけたとしても、あまり反応が返ってこないし、藍斗を遊びに誘っても考える間もなく、反射的に断られる。わざと人を遠ざけているのではないかという態度だ。


 大学に入学して一ヶ月が経とうとしている。もちろん、藍斗には友達がいない。人付き合いが嫌いだから、一人でいいと藍斗は思っている。一人は自由だ。誰にも邪魔されず、マイペースに動くことができる。杏哉みたいに人に付き纏われるのはストレスだ。一人で、自由気ままに大学生活を送りたい。それが藍斗の思いだ。だが、なかなか思うようにはいかないものである。なんせ、側から見たら、藍斗は誰よりも、杏哉と親しい関係にあるのだから。


 藍斗は大学内では、極力、杏哉に関わらないようにしている。杏哉と仲がいいと思われたくない、というのもあるが、それ以上に、杏哉と親しいと思われると、四方八方からドロっとまとわりつくような視線を向けられるのだ。羨ましい。妬ましい。なんであんな奴が。なんで私の方を見ない。嫉妬の感情が藍斗にぶつけられる。勘弁して欲しいものだ。藍斗は別に望んで杏哉と一緒にいるわけではないのだから。


 藍斗の近寄るなオーラを感じた上で、杏哉は今日も、大学で藍斗に話しかける。

 藍斗の背中を見かけた杏哉は、一緒にいた人たちに断りを入れてから、一人、藍斗に近づいた。

「あいと!」

 わざと大きめの声で名前を呼ぶ杏哉を、藍斗は嫌そうに舌打ちをして無視する。そんなことお構いなしに杏哉は笑顔で近づく。側から見れば、親しげな様子で。

「藍斗、逃げないでよ」

 杏哉は藍斗の肩を掴む。藍斗は渋々といった様子で、杏哉の方を向いた。

「お前、最近しつけぇんだけど。なにがしてぇんだよ」

 杏哉は藍斗に接近すると、耳元で、

「関係をバラしたいんだよね」

と、囁いた。藍斗は耳を抑える。息がかかるほど近くて気持ち悪い。

「キモい。やめろ。告白でもされたのか」

「せーかい」

「ピアスでバレそうなものだけどな」

「色が俺らの名前と結びつく人間なんて少ないでしょ。それどころか、右耳に同じピアスつけてることすら気づかれてないよ」

 藍斗は左耳に杏色、つまり、淡いオレンジ色のピアスをつけていて、杏哉は左耳に藍色、つまり、濃い青色のピアスをつけている。また、二人は右耳に碧色のピアスをお揃いでつけている。

「ふーん。巻き込むな」

「ヤダ」

「うざ」

 藍斗は杏哉に背を向けて歩き出した。杏哉は引き止めることをせずに、笑顔で待っているトモダチのところへ戻って行った。

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