一時間目に授業があるのは眠い

 朝食を食べ終わった後。藍斗は愚痴った。

「なあ、なんで、一時間目に、授業あんの」

「しょうがないじゃん。単位上限まで取ろうとすると、入れざるを得なかったんだもん」

「だる」

「別にオレは気にならないんだけど」

 朝に強い杏哉と、朝に弱い藍斗はわかり合えないのである。藍斗は恨みがましい目で杏哉を見る。

「履修登録オレに任せたのお前でしょ」

「そうだな。朝一の授業があるのはしょうがねぇ。だが、朝一の授業があるのに、夜寝かせねぇのはクソだ」

「そう? 大丈夫だよ。動けてるじゃん」

 反省の色がまったく見られない杏哉に、藍斗は舌打ちをした。

「そういう問題じゃねぇよ。お前にはわからねぇだろうけど、寝不足なんだよ、こっちは」

「そう? 大学から帰ると寝てるから大丈夫じゃない?」

「大丈夫じゃねぇ」

「ふーん」

 杏哉は、立ち上がると、食器を持って、キッチンに行った。藍斗の文句をBGMに片付けを始めた杏哉に、藍斗はまた舌を打った。どうせまともに聞いてくれないのはわかっていたが、文句を言わずにはいられない。溜め込むのは良くない。

「あ、わかった。お前が、朝に強くなればいいんだよ。そうすれば、お前の悩みは解決だね」

 名案を思いついたといった様子で杏哉は提案した。藍斗はため息をつく。

「あのさぁ、もっと簡単な方法あるだろ?」

「なに?」

「お前が、俺を、ちゃんと、寝かすことだよ」

「無理」即答。杏哉は、食器を洗い始めた。ジャーと水が流れる音がする。

「無理じゃねぇよ。十二時前にやめるとかできねぇのかよ」

「出来ない」即答。

「ばーか」藍斗は机に突っ伏した。

「諦めた方がいいよ〜」

 杏哉は藍斗に目もくれず、食器の片付けを進めている。二人分の食器を洗い、水切りカゴの中におく。慣れた手つきで、全て洗い終わると、食器の水気を拭き取る。しっかりと拭いた食器たちを、元あった場所に戻す。これで、朝の家事は終了。

 杏哉は寝室に入った。スマホで二人分の時間割を見ながら、壁際に置いてある二人分の鞄の中身を確認する。必要なものが入っていることを確認すると、それらを持ってキッチンに向かう。用意してある二つの弁当をそれぞれの鞄に入れる。準備完了。

「あいとー、学校行くよー。起きて」

「めんどくせー」

 藍斗はゆっくりと椅子から降りて、玄関に向かってゆっくりと、腰を気にするそぶりを見せながら歩き始めた。

「もっと早く歩いてよ」

「てめぇ、わざと言ってるだろ」

「えー? そう思う?」杏哉はとてもいい笑顔で聞き返した。

「うっざ」

「はいはい。何もできないお前のために、準備してやったんだからさ、ぐちぐち言わないの」杏哉は恩着せがましく言った。

「寝不足で、朝早いんだよ。朝っぱらから煽るな。ただでさえ怠いのに余計疲れる」

「やだー」

 藍斗は小さく舌打ちをすると、杏哉をリビングに置いて、さっさと玄関に向かった。杏哉は後を追いかける。

「早く歩けるんだね」

「お前のそばにいるより、痛み我慢するほうがマシだからな」

「我慢できるんなら大丈夫だね」

「うるせー」

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