大学初日の朝
午前八時、杏哉は藍斗を起こす。声をかけても起きないのがわかっていたので、藍斗に掛かっている布団を問答無用で引きはがした。
「藍斗、起きて」杏哉は大きめの声で呼びかけた。
「さみぃ」寒そうに体を丸めながら眠そうな声を発した。
「パンツしか履いてないからね。早く服着ないと風邪ひくよ」
「がっこーやすめるならいい」
「大学の授業は休まない方が良いらしいよ。あと、熱出たらオレがつきっきりで看病することになるよ。そんなの嫌でしょ。オレも嫌だよ。だから、とっとと服着て。隣のお前のベッドの上に置いてあるから」
藍斗のベッドの上にはいつも藍斗が着ている黒い服が置いてある。杏哉は起きてすぐ、自分が着替えるついでに用意しておいたのだ。藍斗の行動回数を極力減らして、面倒くさがる藍斗を動かすというタイムロスを減らすためだ。
「寝る前に服着せといてくれりゃいいのに」
「寝てる人間に服着せるのは大変だよ。パンツ履かせただけありがたいと思ってほしい。それに、パジャマから着替える手間が省けていいでしょ」
「まあ、確かに」
藍斗はゆっくりと起き上がった。大きく欠伸をすると、ベッドからゆっくりと降りて、右に碧色、左に杏色のピアスを付けた。ちなみに、二人とも起きて一番最初にすることはピアスを付けることであり、杏哉は右に碧色、左に藍色のピアスを付けている。
杏哉は藍斗が起きたことを確認すると、リビングに戻った。
その数分後、藍斗が寝室から出てきた。そして、朝食が並べられた机の前の椅子に座った。杏哉はお茶を並べてから、藍斗の正面に座った。特に会話もなく黙々と食べた。
朝食を食べ終わると、杏哉は藍斗に話しかけた。
「藍斗、今日は二時間目と三時間目と四時間目に授業あるから。場所は全部メッセージで送っておくから、ちゃんと見てね。でも、連絡事項とかはちゃんと自分で聞いてね。ちゃんと起きて授業聞いてよ。後で聞けるような友達なんてどうせできないんだから。あと、お弁当作ってあるから、どっかでそれ食べて。学食なんてどうせ行かないでしょ。荷物は全部準備してあるから。多分忘れ物はないはず。あったらオレのとこ来て。オレに連絡してくれれば場所教えてあげるから。あと、なんかあったら言ってね」
「じゃあ、さっそく、困ったこと。腰いてぇ」
「気にしないで」杏哉は心配するそぶりも見せずに即答した。
「は? 手加減っつーものを知らねぇのか、お前。ガッコ―行かなきゃいけねー日ぐれぇは、もっと加減しろバカ」
「なんで? ちゃんと立って歩けてるじゃん。それに、どうしてお前なんかを気遣わなきゃいけないの?」
不思議そうに首をかしげる杏哉を見て、藍斗は舌打ちをした。
「いや、だってさ、お前の世話してるんだから、それの報酬くらい貰ってもいいだろ。お前にいくら嫌われようがどうでもいい」いつもの調子で杏哉は言った。
「よくいつもの笑顔のままそういうこと言えるよな。反吐が出る」
軽蔑したような、呆れたような目を杏哉に向け、藍斗はゆっくりと立ち上がった。
「九時五十分くらいには家出るからね」
「へいへい。俺は寝る」
そう言うと、藍斗はソファの上に丸まった。寝不足なのですぐに眠りにつくことができた。
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