履修登録

「藍斗、履修登録しないといけないから、時間割組まないと」 

 朝ご飯を食べ終ってすぐに杏哉は藍斗にそう言った。

 先日の大学のガイダンスで様々な資料が配布された。その中に学生便覧というものがあり、年間スケジュールや履修登録についてなどが記載されていて、それを見ながら履修計画を立てなければいけない。期間内に履修登録を済ませなければ、最悪、単位を取ることができず、留年が確定してしまう。

 大学生活の今後を決めると言っても過言ではない非常に大事な履修登録を、藍斗はたった今思い出したかのような反応をした。

「そういや、大学ってそういうのしなきゃいけねんだっけ」

「年に二回、やんなきゃいけないんだよ。授業受けられなくて留年するよ」

「めんど。やっといて」

 藍斗はめんどくさそうに杏哉にすべてを丸投げた。それを杏哉は嫌な表情一つせずにすぐに「わかった」と普段通りの笑顔で引き受けた。

「いいんだけど、あとで文句言わないでよ」

「約束はできねぇ。一時間目に授業入れんな」

「無理でしょ。たぶん、一時間目に授業入れないと単位の上限いっぱいまで取れないよ。そんな嫌そうな顔しても無理だからね。あと、学部違うから、授業全部同じにできないよ。だから、ちゃんと起きて授業の内容聞いてないとダメだよ」

 まるで親のように杏哉は忠告した。藍斗の顔には余計なお世話だと書いてある。

「どうせ、友達一人も出来ないどころか、サークルにも入らないで、誰とも話さないんだからさ、自分でちゃんとやるしかないでしょ。高校の時みたいに授業中寝てて、後で教科書なんとなく見て問題集やるっていうのは出来ないからね」

「あー、やだやだ。授業聞くとか無理。センセーの無駄話あんじゃん。あーゆーのやだ。いらない。無理。絶対寝る。ヤダ」

 藍斗は子供のように駄々をこねて不貞腐れた。杏哉の顔は普段通りの笑顔のままだが、呆れていることが目からよく伝わってくる。

「うるさい。文句言っても、大学入っちゃったんだから、卒業まで頑張ってよ。結構名前が使えそうな大学だから卒業しといて損はないよ。お前には関係ないんだろうけどね」

「きょーみねー。とりあえずめんどくさ」

「はいはい。オレが出来ることは全部入れがやってあげるから、授業くらい受けて。オレが代わりに出席とか無理だからさ。それ以外の日常生活全部オレがやってあげるから、お前は勉強とダンスしてればいいよ。ていうか、そういう約束したでしょ。お前が忘れるわけないよね」

 杏哉の目が一瞬だけ鋭くなったのを藍斗は見逃さなかった。杏哉は約束を忘れられることが大嫌いだ。

「覚えてるぜ。ちゃんと。だからキレんな」

「怒ってないよ、まだ。今日履修計画組んじゃうから」

「テキトーにやっとけ」

 自分のことなのにまるで他人事のように無関心な藍斗は立ち上がると防音室に向かった。

 杏哉も立ち上がると食器を片付け始めた。食器洗いと掃除を終わらせて、防音室に水筒とゼリー飲料を放り込んでから、履修計画を立てることにした。どんな科目を選んでも藍斗はいとも簡単に好成績を取ることが想像に難くなくて、杏哉は小さく舌打ちをした。











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