第28話
主役二人がいなくなったのだ、当然パーティーは中止となった。
陛下達は謝罪回りをしているらしいが賓客達は怒りでいっぱいになっている。
「ウィル様、本当にすみません」
ここはウィル様に用意された控室。
陛下達の謝罪周りが終わるのを待っているのだ。
母とジョセフも公爵家の控室にいるみたいだけど、父だけは陛下達と一緒に謝罪をしているらしい。
「大した傷じゃない。気にするな」
「ですが…」
私のせいで怪我を負わせてしまった。
もっと警戒心を持っていれば良かったのに。
部屋の扉が叩かれる。
「ウィリアム殿下…その、来客が…」
歯切れの悪いチャーリーに首を傾げた。
てっきり陛下達が来たのだろうと思ったが違うようだ。
「アーサー殿下か?」
「え?」
ウィル様の発言に驚いているとチャーリーは首を大きく縦に振った。
「はい。追い返しますか?」
「ソフィが決めてくれ。どうする?」
決めてくれと言われても…。
ふと甦ったのは会場から出て行く時のアーサーの表情。
あの様子だと…。
「チャーリー、通してあげてください」
「畏まりました」
チャーリーに連れられてやって来たのは意気消沈のアーサーだ。
彼に声をかけたのはウィル様だった。
「アーサー殿下、こちらに座ってください」
私達の前にあるソファにアーサーは腰掛けた。
こちらを見た瞬間、微妙な顔をする。
「仲がよろしいのですね」
寄り添い合う私達の姿を見てアーサー殿下は悔しそうに呟いた。
「どうしてここに来たのですか?」
「本日の件の謝罪をしたくて」
「…罪悪感を持つくらいなら最初からやるなよ」
呆れたようにウィル様が呟いた。
確かに彼の言う通りだ。ストーン伯爵令嬢との婚約を破棄したいなら人が見ていないところで秘密裏に行うべきだった。
私達がそうしたように。
「何故ソフィとの婚約を戻そうとしたのですか?」
「それは…。私達が『真実の愛』で結ばれているからだと思って…」
まだ『真実の愛』と言ってるのですか。
アーサー殿下は膝の上に乗せた手を握り締め、私を真っ直ぐ見つめた。
「そ、ソフィア、君は私を本当に好いていないのか?」
「好いておりません。婚約者であった頃は婚約者として情を持っておりましたが婚約破棄を告げられて以降は嫌悪感しかありません」
事実をつらつらと述べていく。
私からの言葉を聞いてアーサー殿下は項垂れた。
「アーサー殿下、貴方は選択を間違えたんですよ」
ウィル様が冷たく言い放つ。
それに対してアーサー殿下は自嘲するように痛々しく微笑んだ。
「返す言葉がありませんね」
私が知っているアーサーに戻ったように見えた。
「アーサー殿下、私からも謝罪をさせてください」
私の言葉に二人の王子が大きく目を瞠った。
「ストーン伯爵令嬢がアーサー殿下を狙ったのは私の父が彼女の想いを断ったのがきっかけです。だから謝罪を」
「ソフィア、それは違う」
私の言葉を遮り、首を横に振ったのはアーサーだった。
「あの女の本質を見抜けたなかった私が悪いのだ。君が謝る事じゃない」
「ですが」
「ソフィア、謝罪は要らない。代わりに最後くらいは笑顔でお別れを言ってくれ」
最後。
分かっている。別れを惜しむわけじゃない。
彼が望むならそうしてあげるのが良いのだろう。
「アーサー殿下、今までありがとうございました。さようなら」
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