第30話

「申し訳なかった」

「申し訳ありませんでした」


陛下と王妃様は控室に入るなり、頭を下げて謝罪をしてきた。

国王が立ったまま謝罪を行うなど前代未聞だ。

当然慌てる。


「お顔を上げてください。私は平気ですから」


そう言ってみるが頭を上げる気配のない陛下達にどうしたら良いのか分からなくなる。

同じく謝罪を受けたウィル様が何も言わないからでしょうか。

助けるように見たのは陛下達に付き従っていた父だ。

父は私の困り顔を見ると小さく溜め息を吐いた。


「エド、リリー、ソフィが困ってる。顔を上げろ、みっともない」

「お父様…!」


陛下と王妃様に対する父の態度に顔を真っ青にさせる。

父が陛下達と古い付き合いで仲が良いという事は知っているけど、これは流石に不味いのでは?

そう思ったが陛下達は申し訳なさそうな顔をゆっくりと上げるだけで何も言わなかった。


「あの愚息を育てたのはエド達だ。ソフィ、謝罪を受け取ってあげなさい」


あげなさいって上から目線で受け取れるわけないじゃないですか。

といっても怒りに満ちた表情をしている父に文句を言うわけにもいかない。


「し、謝罪は受け取らせて頂きます」

「感謝する」

「ありがとう、ソフィちゃん」


父が怖いのか二人は怯えたような表情をする。


「私も謝罪を受け取らせてもらおう」


そう言っているが二人を睨み付けるウィル様。

レイディアント王国の代表として来ている彼が厳しい目を向けるのは当然の事です。


「しかし許される事ではない。此度の件はレイディアント国王に伝えさせてもらう」


低い声が響いた。

陛下達も言われる事が分かっていたのだろう。

彼の言葉を粛々と受け入れる。


「安心してくれ。悪いようにはしない。フール王国には私の大切な婚約者がいるのだからな」


途端に表情を緩めたウィル様は普段通りの優しい雰囲気を身に纏っていた。

それに安心したのか陛下達も強張っていた表情を緩める。


「ウィリアム殿下、ソフィア嬢、婚約おめでとう。どうか幸せになってくれ」


陛下からの言葉に胸がじんわりと熱くなった。


「もちろんだ」


得意気に笑うウィル様は私の手を握った。

お父様から鋭い視線が飛んでくる為、若干の居心地の悪さを感じながらも私も彼の手を握り返す。


「ソフィちゃん、向こうに行っても頑張ってね」

「ありがとうございます、王妃様」


これから忙しくなる陛下と王妃様。

次に会えるのはおそらく私とウィル様の結婚式の時だろう。


「陛下、王妃様、今までありがとうございました」


ずっと言いたかった言葉をようやく言う事が出来た瞬間だった。


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