幕間16※アーサー視点
婚約披露パーティーから数日後、私の廃嫡が国中に知れ渡った。
詳しい事を何も知らされていない市井の民達は大騒ぎ、事情を知っている貴族達は次の王太子の話ばかりをしているらしい。
「今日ストーン元伯爵令嬢の処刑が執り行われました」
薄暗い部屋に閉じ込められていた私の元に報告に来たのはソフィアの父であるオズワルデスタ公爵だった。
なぜ、忙しい彼が私のところに訪れたのかさっぱり分からない。
「少しだけ貴方とお話がしたくてね」
文句を言われるのだろう。
もしかしたら殴られるかもしれない。
そんな気持ちのまま彼と向き合って座った。
「アーサー殿下も知っていると思いますがストーン元伯爵令嬢が今回の騒動を実行するに至った経緯を改めて説明させてください」
「はい…」
過去にデイジーがオズワルデスタ公爵に言い寄り振られた事が全ての始まりだったのだ。
初めての屈辱を味わったデイジーはその日から公爵を恨むようになった。そして考えたのが公爵の娘であるソフィアを傷つける事という滅茶苦茶なもの。ソフィアが傷つけば公爵が嘆き悲しむと思ったからだそうだ。
婚約者である私を奪う事でソフィアが傷つくと考えたデイジーは私に言い寄る事を考えた。つまり私が王太子と知って近づいたのだ。
その企みにまんまと引っかかってしまった私はソフィアとの婚約を破棄。デイジーが真実の愛の相手であるなど世迷言を吐いてしまったのだ。
苦労して手に入れた王太子の婚約者という座。
それをあっさりと引き摺り下ろされそうになったデイジーは私まで恨むようになった。
そして私がソフィアと婚約をし直すと言った事で彼女を殺す事を決意したらしい。
私と公爵の絶望する顔が見たかったのだ。
「あの女はソフィアの事を恨んだりしていないのです」
全てを話し終えた公爵がそう呟いた。
「あの女の逆恨みではありますが、彼女がソフィアを殺そうとするきっかけを作ったのは私達ですよ」
真っ直ぐ見つめられて言われた。
私のせいでソフィアは傷付けられそうになったのか。
「私が偽りの愛に溺れさえしなければ…」
今頃、私は王太子のまま、ソフィアは私の婚約者ままでいられたというのに。
「ソフィア…」
閉じ込められてからずっと眺めていたものを机の引き出しから取り出す。
それはソフィアに婚約破棄を言い渡した時に返却されたエメラルドが付いた指輪だった。
彼女から返されて以来、何度も捨てようとした。でも捨てられなかった。
その時点で自分の心がどこにあるのか分かっていたはずなのに気が付かないふりをした。
『ソフィア、君を一生大切にしよう』
その誓いが一生守られる事はない。
偽りの愛に溺れた私は真実の愛を見失ったのだ。
「公爵、最後にお願いがあります」
「なんですか?」
「これを捨ててください」
「これは…」
「五年前、私がソフィアに送ったものです」
驚いた顔をしながらも公爵は指輪を受け取ってくれた。
「捨てるならご自身で行った方が…」
その言葉に首を横に振った。
「私には捨てられそうにありません。手元にある限りずっとソフィアの姿を探し続けてしまう。それでは駄目なのです」
「だから私に捨てろと」
「はい。貴方なら慈悲もなく捨ててくれるでしょう?」
「……畏まりました。必ず捨てさせてもらいましょう」
「ありがとう、公爵」
話は終わりだと立ち上がった彼を見送る。
振り返った公爵に言われたのはあまりにも酷い台詞だった。
『本当は貴方がソフィアを笑顔にしてくれる事を願っていたのですよ』
それを聞いた私は泣き崩れた。
何度も何度と愛しい人の名を呼んだ。
愛しいソフィア。
「どうか笑っていてくれ」
それが私の最後の望みだ。
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