第31話

婚約披露パーティー後の一週間は様々な事があった。

アーサーの廃嫡、ストーン元伯爵令嬢の処刑、そしてストーン伯爵家の取り潰し。

ストーン元伯爵と夫人は生涯鉱山労働の刑となった。

そしてウィル様はレイディアント王国に戻る事になった。


「本当に良かったのか?」


隣に座るウィル様に尋ねられた。


「ええ。陛下達にもちゃんと挨拶が出来ましたから」


にっこりと笑って返す。

ここはレイディアント王国に向かうサンライト王家の馬車の中。

そう、私もウィル様と一緒に向こうに行く事にしたのだ。

何故かって聞かれたら彼と離れるのが嫌だからと答えてしまうのだろう。

この一週間で自覚した事がある。

私はウィル様が好きなのだと、恋愛感情を持っているのだと自覚したのだ。

きっかけは彼から「そろそろレイディアントに戻る」と言われた事だった。

いつか戻る事は分かっていたのに実際に話を聞かされた瞬間、胸が張り裂けてしまいそうなくらい痛くなった。悲しくなった。

離れたくないと思ってしまったのだ。

そこから好きと自覚するには時間がかからなかった。


「でも、どうして急について来てくれる気になったんだ?」


首を傾げて尋ねてくるウィル様。

実は「好き」とは言えていないのだ。

機会がないというか、恥ずかしいというか。

そんな感じで伝えられていない。

母からは「さっさと伝えた方が良いわ」と助言を貰ったが実行に移せていない自分の情けなさに笑えてくる。


「早くレイディアント王国に慣れたくて…です」

「そうか。俺としては嬉しいから良いけど」


そう言ったウィル様は膝上に乗せていた手を握ってくる。

これまで何度もされてきた行為なのに「好き」という気持ちのあるなしでは大きく違う。つまりドキドキしてしまうのだ。

赤くなり始めた頰を隠す為、俯き、彼の手を握り返す。

それだけで幸せなのだから恋というものは凄い。


「ソフィ?具合悪いのか?」

「い、いえ、なんでもありませんわ…!」


顔を覗き込んでくるウィル様に向かって慌てて首を横に振った。

挙動不審にも程がある。

眉間に皺を寄せて「本当か?無理していないか?」と尋ねてくるウィル様。


「ほ、本当ですわ。ちょっとだけ寝不足なのです」

「寝不足か…。最初の休憩地点まで眠っていて良いぞ」


そう言ったウィル様は手を離し、私の頭を抱き寄せてくる。こつんとぶつかった先は彼の肩だった。


「俺に寄りかかって寝ていると良い。着いたら起こしてやる」

「で、ですが…」

「ソフィに無理はさせられない。良いから眠っていろ」


強引なのに声色は優しい。

本当に私を心配してくれているのだろう。


「分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」


彼の肩にもたれ掛かり確かな幸せを感じたのだった。



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これでおしまいです。

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真実の愛ですか?笑ってしまいますよ 高萩 @Takahagi_076

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