第2話

アーサーと別れ屋敷に帰ると四歳下の弟ジョセフに出迎えられた。


「ソフィ姉様、おかえりなさい。早かったね?」

「ただいま、ジョセフ。ちょっと色々あって早く帰ってきたのよ」

「ふーん。大丈夫?もしかして意地悪された?」

「平気よ」


小さい頃は私の後ろをついて回っては怪我をしそうになり心配をかけてきたジョセフは成長するにつれて私の事を心配するようになっていった。


心配をしてくれる優しい弟を持つのは嬉しいが心配されてばかりだと姉としては情けなくなる一方だ。


「そっか。困った事があったら言ってね」

「ありがとう、ジョセフ。ところでお父様達は戻ってきているかしら?」


父と母はとある侯爵家のお茶会に招待されている。

お昼過ぎには戻ると言っていたのだが、まだ戻ってきていないのだろうか。

婚約破棄の事を早く伝えたいのだけど。


「うん、さっき戻ってきてたよ。二人ともお父様の執務室にいると思うけど、どうして?」

「大切なお話があるからよ。ジョセフも一緒に来てくれるかしら?」

「大切なお話?うん、分かった」

「私は準備してから向かうわ」

「じゃあ、僕は先に言ってお父様達に伝えておくね」

「ありがとう」


一度部屋に戻り、重たいドレスを脱いで軽いワンピースに着替える。纏め上げていた長い髪を下ろし軽く梳かして貰ってから父達の待つ執務室に向かった。

部屋に入ると父と母が並んで座っており、向かい側にはジョセフがいた。空いているジョセフの隣に座って両親と向き合う。


「おかえり、ソフィ」

「おかえりなさい」

「ただいま戻りました、お父様、お母様」


お茶会に行っており何も知らないであろう二人は笑顔で出迎えてくれた。

どこから話そうか迷っていると落ち着かない様子のジョセフに話しかけられる。


「ソフィ姉様、大切な話ってなに?」

「今から話すわ」


そっとジョセフの頭を撫でてから改めてお父様達の顔を見る。


「先程アーサー様に婚約破棄を言い渡されました」

「は?」

「え?」


唐突な発言に目の前の二人はぽかーんと大きく口を開き絶句する。

私も聞かされた時は危うくその姿をアーサーに見せてしまうところだった。

家族のみの気の緩んだ部屋ではそうなってしまうのは当たり前の事だと思う。


「今、婚約破棄と言ったか?」

「はい、お父様」

「そうか」


項垂れた様子の父と今も口を大きく開きっぱなしの母を見て、期待を裏切ったと申し訳なくなる。


オズワルデスタ公爵家は数代に一度王妃を輩出している名家だ。自分達の娘が王妃になれると知った日には父も母も大変嬉しそうにしていた。

落ち込ませてしまったのだろう。

そう気分を落とした時、明るい声が響いた。


「やったぁ!」


声の主は隣に座る弟ジョセフだった。

驚いて隣を見ると嬉しそうに笑うジョセフがおり、困惑する。

なにを喜んでいるのだろう。


「姉様、これであの王子様と婚約しなくて済むんだよね?」

「え、えぇ…」

「良かったぁ」


安心したように笑う弟に戸惑いを隠し切れず助けるを求めるように父と母を見ると満面の笑みを浮かべて私を見ていた。


「お父様?お母様?」

「すまない。嬉しくて頬が緩んでしまってね」


口と頬を覆い隠すように手を当てる父に戸惑いは加速する。母を見ればいつの間にか取り出されていた扇子で顔を隠していたが、目元は細められていた。

喜びっぱなしのジョセフは私の左手を取り縦に大きく振り回していた。


どういう事なの?

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