真実の愛ですか?笑ってしまいますよ
高萩
第1章 フール王国婚約破棄編
第1話
「すまない。君との婚約を破棄させてほしい」
頭を下げたのはフール王国の王太子で私の婚約者のアーサーだ。
ここは王城の一室。私はいつものように王太子妃教育を受ける為にやって来たのだ。
その合間にアーサーから呼び出され聞かされた言葉は理解不能なものだった。
「何を言っているのですか?」
衝撃的なアーサーの発言に戸惑いながら引き攣った声を出した。
「真実の愛を見つけたんだ」
顔を上げたアーサーの顔は見た事もないほど情けないものだった。
私ソフィア・オズワルデスタが王太子アーサー・ハワードと婚約したのは十二年前の話。
アーサーは幼い頃より王太子として大切に守られるように育てられてきた。かといって甘やかされていたわけでもなく彼は厳しい王太子教育を文句も言わず受けていたのだ。そして真面目な青年に成長を遂げた。
欠点があるとするなら女性に免疫がないところだろう。
私とは婚約関係にあるが恋人というわけではない。
お互いに教育が忙しく時間が取れてもお茶を共にするくらいだった。
決して仲が悪かったわけではない。ただお互いに婚約者であるのが当たり前で、将来は夫婦となる事が決まっていて、だから他者に目を向ける事はない。
少なくとも彼の発言を聞くまではそう思っていたのだ。
「お相手は誰なのですか?」
「ストーン伯爵令嬢であるデイジーだ」
その名前を聞いた瞬間、私は呆れ返った。
まさかあのストーン伯爵令嬢を真実の愛の相手だと言うとは。
この方は本当に女性に対して免疫力がないのだと理解した。真実を教えてあげるのが臣下であり婚約者である私の務めだ。
「あのアーサー様、実は」
「デイジーは愛らしい子なんだ…。もちろん君だって負けてない美しさを持つ。でも、すまない。私が好きなのはデイジーだ」
それを聞いた瞬間、もう良いと思った。
陛下や王妃様には長年お世話になった事もあって申し訳ないと思うが彼自身が私との婚約破棄を望んでいる。
私としても辛い王太子妃教育に終止符を打てると言うなら幸いだ。
「そうですか、分かりました。婚約破棄を受け入れます」
「すまない、ありがとう」
「いえ、別に」
「悪いのは私の方だ。君の今後の婚姻に支障がないように手配もさせてもらう。許してくれ」
もうどうでも良かった。
長年この方を支えられるようになる為に血を吐くような努力を積み重ねてきたが無駄になってしまった。出来る事なら私の努力を返してもらいたいがそれは無理な話だ。
それに自分の身に付けたものは消えない。これからも役立つだろうと思えば怒りも幾分か落ち着く。
「アーサー様、これはお返し致します」
「これは…」
私がアーサーに差し出したのは彼の瞳と同じ色を持つエメラルドが付いた指輪だった。
この指輪は五年前。私の十三歳の誕生日にアーサーがくれたものだった。
『ソフィア、君を一生大切にしよう』
プロポーズと呼べる言葉と共に左手の薬指に嵌められたのだ。
私はその言葉が嬉しかったし、常に身に付けるようにしていた。でも、それは過去の話だ。
「これは君にあげたものだ」
「婚約者でなくなるなら不要です。王族から貰った物を勝手に捨てるわけにもいきませんので処分はアーサー様にお任せします」
それだけ伝えると私は立ち上がり礼をする。
「今までありがとうございました。どうかお幸せに」
なれるものなら、ですけどね。
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