幕間13※ウィリアム視点

ソフィアとオズワルデスタ公爵夫人が立ち去ったのを見送った後、招かれたのは公爵の執務室だった。

向かい合うように座って話すのは傍迷惑な王太子アーサーの事だ。


「全くあの男には困ったものです」

「彼が何を考えているのかさっぱり分からない」


腕を組み深く溜め息を吐く公爵に俺も呆れたような声を出す。


「アーサー殿下はソフィアとの婚約関係を取り戻す為に陛下と掛け合ったそうです」

「何?」

「勿論、陛下は却下しましたよ。ただアーサー殿下に諦めた様子はないそうです」

「ソフィには既に婚約者がいると教えてやれば良かったのでは?」


俺の存在があればアーサーも諦めるはず。

彼は王族なのだから公表前に知っていたとしても不自然ではないのだ。

俺の言葉に公爵は暗い顔をした。


「伝えようとしたそうです。しかしアーサー殿下はそれを聞く前に部屋を飛び出してしまったらしいのです」

「……陛下の言葉くらいちゃんと聞けよ」

「まぁ、聞いていたところでアーサー殿下は信じなかったでしょうけどね」


苦笑する公爵に「それもそうだな」と返した。

今のアーサーはソフィアに執着し過ぎている。自分にとって都合の悪い話は聞かないだろう。


「ウィリアム殿下。きっとアーサー殿下は披露式で余計な真似をします。ソフィが傷つかないように守って頂けますね?」


威圧的な態度を感じる。

本来なら不敬に当たる事だ。ただ娘の事を思っての態度である事はよく分かっている。

ソフィアを大切に思っている父親を不愉快に思う事はない。


「勿論だ。近づく事すら許さない」


本来なら会う事も止めさせたいところだが、俺の婚約者であると教えてやりたい。

そして自ら手放した事を後悔し続ければ良いのだ。

我ながら性格が悪いと思うが原因を作ったのはアーサー自身なので反省はしない。

俺の答えに満足したのか公爵は頬を緩めた。


「そのお言葉を聞けて安心しました」

「ところでアーサーも厄介な存在だが、例の阿婆擦れ女はどうなっているんだ?」

「それが……アーサー殿下に婚約破棄を言い渡されて荒れているそうです」


既に婚約破棄を言い渡しているのか。

今日二人の婚約披露式だと言うのに無責任にも程があるだろ。

アーサーはもっと賢い人間かと思っていたが碌でもない王子だったようだ。


「ただ陛下は二人の婚約破棄を認めないそうです。といっても結婚させるわけでもないのですけどね」

「どうせ王太子が一年に二回も婚約の破棄を行ったという醜聞を広めたくないからだろう」

「その通りです」


いっそのこと碌でなし王子だと広まれば良いのに。そして廃嫡されてしまえ。

そう思ってしまった。


「という事ですので本日はアーサー殿下もストーン伯爵令嬢も披露式に出て来られます。十分に気をつけてください」

「承知した」


阿婆擦れ女はよく知らないがアーサーが大人しくしているとは思えないけどな。

何があってもソフィアを守らなければ。

強く心に誓った。

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