幕間②※ルイス(ソフィア父)視点

私ルイス・オズワルデスタは怒っている。

原因は数日前に領地にある本邸に向かった娘ソフィアを傷付けた男からの手紙だった。

手紙にはこう書かれていた。


『ソフィア、君の為に縁談をいくつか用意させてもらった。皆いい男だ、きっと君も気に入る人が見つかるだろう。君を傷つけて本当にすまない』


アーサー王太子殿下は馬鹿ではないが愚か者だとよく分かった。

娘の気持ちも考えず勝手に縁談を勧めてくるとは。


「城に行ってくる」

「今からですか?」

「陛下と話をしてくる」

「では私も行きます。王妃様には私からお話します」

「頼むよ」


家の事をジョセフと執事長ジュードに任せて妻であるローラと王城に向かった。

陛下エドワードと王妃リリーとは長い付き合いだ。本来なら会う事が難しい彼らとはすぐに会える事になった。


「よく来たな、ルイス」

「ローラもわざわざありがとう」


私と妻の怒りを感じたのか国王夫妻は怯えた様子を見せた。礼儀として挨拶をしてから彼らの前に座る。睨み付ければ二人揃って申し訳なさそうに眉を下げた。

自分達の息子がやらかした話は既に耳に入っているのだろう。それならば、さっさと言いたい事を言って終わらせよう。


「エド、君の息子はどういう教育を受けているんだ」

「すまない、ルイス」

「王太子妃教育に関してはソフィが自ら頑張っていたから止めなかったよ、リリー様」

「分かっているわ、ローラ」


過去に王太子妃教育で辛そうにしているソフィアに心苦しくなり厳し過ぎるものは止めろと言った事がある。

次期王妃となるのは簡単な事ではない、厳しくなるのも分かる。ただ幼い娘にやらせる事ではないと判断したから止めようとしたのだ。

それでも最後に私と妻が折れたのは娘の頑張りを無駄にさせたくなかったから。

ちなみに止めれば良かったと、婚約者にしなければ良かったと後悔をしたのはソフィアが笑顔を見せなくなってからだった。


「まさかこんな形で裏切られるとは思わなかったよ」

「本当にすまない…」

「エド達が悪くない事は分かっているが君達の息子に対しては怒りで頭がどうにかなりそうだ」

「どういう事ですの?」


首を傾げる国王夫妻にアーサーから送られてきた手紙を見せると二人は揃って顔を青くさせた。

おそらく手紙の件は何も知らなかったのだろう。


「これは…」

「こんな物をソフィアちゃんに送ったの…」


自分から見てもアーサーは真面目な好青年だったと思う。ソフィアを嫁に出すには良い相手だと考えていた。

しかし彼は真面目過ぎたのだ。

真面目だからこそ無意識的に愚かな真似をしてしまったのだろう。


「ソフィアはこの手紙の事を知らない。今は領地にいるからな」

「今のリリー様達には会わせる事は出来ません。理由は分かりますわね?」


二人とも揃って首を縦に振った。

ソフィアは国王夫妻に気に入られている。

昔からアーサーの正妃にはソフィアが良いと何度も言われてきたのだ。だからこそ彼らがソフィア本人に婚約者のままでいてほしいと頼む恐れがある。そうなればソフィアはきっと断れない。

再び婚約者にするなど絶対に御免だ。


「エド、今回は正式に婚約の解消を頼みきた」

「ああ…」

「リリー様、もちろん構いませんよね?」

「ええ…」


婚約の破棄と解消。どちらも婚約者を失う事には違いないが意味が大きく異なる。

貴族界では婚約破棄された令嬢は傷物として扱われ縁談も碌なものしか来ない。

逆に解消となれば婚約自体がなかった事になり傷物として扱う人間は少ない為、縁談も多くやってくる。

落ち度のない娘が傷物になる事は許せないからこそ解消の形をとってもらうのだ。


「書類はこちらで用意させてもらった」

「署名と捺印、それから受理をお願い致します」


覇気を失くしたまた署名と捺印をする友人夫妻に溜め息が出た。

国王として、王妃としては優秀な彼らだが親としては子を理解しなさ過ぎている。


「それからソフィアはエド達に会いたがっていた。今回の件が落ち着く頃には会いに来させるつもりだ」

「そうか…」

「代わりに手紙を預かってきましたわ」

「ありがとう」


ソフィアの手紙に何が書かれているかは知らない。

しかし優しいあの子の事だ。陛下達を気遣うような事ばかりが書かれているのだろう。


「それでは失礼する」

「その前にお二人は殿下の真実のお相手を知っておりますか?」


立ち上がろうとした私を止めたのは妻ローラだ。

彼らにストーン伯爵令嬢の話をしようとしている事に苦笑する。


「ああ、聞いている」

「それがどうしたの?」

「気を付けた方がいいですよ。誰の子を身籠るか分かったものではありませんので」


妻の台詞に二人とも言葉を失った。

当たり前だ。間接的にストーン伯爵令嬢は処女では無い遊び女と伝えたのだから。

王族に嫁ぐ資格としては家が伯爵以上の身分である事と処女である事が必須とされている。

つまりあの悪女には王家へ嫁ぐ資格は無いのだ。


「それでは失礼します」

「失礼する」


茫然とした様子の二人に礼をしてから部屋を出る。


「真実の愛、貫き通せるかしら」

「少なくともアーサー殿下は貫き通そうとするかもな?」

「ソフィのところに行こうかと思っていたけど面白いものが見れそうだからまだこっちに居るわ」


くすくすと笑い合って、王城を後にした。

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