第6話 

オズワルデスタ公領にある本邸に到着すると兄ルイに出迎えられた。


「ソフィ、よく来たね」

「お兄様、お久しぶりでございます」


礼を取ろうとすれば抱き締められて驚く。

最後に兄が私を抱き締めたのはもう十年程前の事だったから。王太子妃教育が辛くて屋敷の隅っこで泣いていた私を優しく抱き締めてくれたのは兄だった。

ただそれ以降は甘える事もなく過ごし離れ離れになってしまったのだ。

十年振りの抱擁はあの頃のように優しくて私を労る気持ちが十分に伝わってくる。


「今まで大変だったね。でも、もう大丈夫だ。しばらくゆっくり過ごすと良いよ」


兄の腕の中、優しい声が耳の奥まで入り込んでくる。それだけで安心してしまうのだから家族というのは不思議なものだ。


「お兄様、私はゆっくり過ごす為にやって来たわけじゃないのですよ?お手伝いに来たのですから」

「そうか。そうだったね」


思い出したように頷く兄に本当に忘れていたのかと苦笑していると奥の方からお腹を大きくした義姉レイラがやって来た。


「あらあら仲良しね」

「レイラお義姉様!」


兄の腕の中から抜け出し義姉のところに行くと嬉しそうに笑ってくれた。

義姉の体を気遣いながら抱き締め合う。


「久しぶりね、ソフィアちゃん」

「お久しぶりでございます」

「前に会った時よりも美人さんになったわね」

「たった数ヶ月で変わるものではありませんよ」


義姉は私と同じように兄と弟に囲まれて生活をしていた為か姉妹に憧れていたらしく私が妹だと紹介された時からとにかく私に対しては甘いのだ。逆に私も義姉に対しては素直に甘える事が出来た。それは彼女の持つ包容力の強さがそうさせていたのだろう。


「今まで大変だったでしょう?ゆっくりしていってね?」

「お義姉様までお兄様のような事を…。私はお義姉様の代わりの手伝いとしてやって来たのですよ?」

「そんな事言わずに仕事はルイに任せて私とのんびり過ごしましょう?」

「そうだよ、ソフィは今まで大変だったんだ。ゆっくりした方がいい」


この夫婦は似た者同士なのだと肩を竦めた。

今まで大変だったからといって何もせず甘えるのは性に合わないのだ。それに王太子妃教育で身に付けたものを無駄にはしたくないし、兄達を支えるのに使えるというのなら使いたい。


「一日だけゆっくりさせてください」

「毎日でも良いのよ?」

「それは駄目です。私は穀潰しになりたくないのですから」

「ソフィは真面目だな」

「お父様に似たせいですよ」


二人には納得いかないという表情をされるがこればかりは譲れない。


「それに仕事をしていた方が気が紛れるので」

「そうか…」

「ソフィちゃんがそう言うなら良いけど、無理はダメよ?」

「分かっておりますわ」


こうして私は優しい兄と義姉に囲まれて領地での生活を始めた。

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