第13話

ウィリアム殿下が用意してくれていた書類に署名をする事であっさりと婚約が成立した。


「早速で悪いのだけど、ソフィア嬢…いや、ソフィには俺と一緒にとある式典に出て欲しいんだ」

「構いませんよ」


王太子である彼の婚約者になったのだ。

多くのパーティーに参加するのは分かっている。

もちろん参加するつもりなのだけどウィリアム殿下は何故か浮かない顔でこちらを見てきた。


「参加して欲しいのはアーサー殿下の婚約披露式なんだ」


気不味そうに言われた原因がよく分かった。

確かに元婚約者の婚約披露式に出てほしいとは言いづらい。

ただ正直なところもう吹っ切れている相手の話だ。彼が気に病む必要はない。


「別に構いませんよ」


それよりも私がウィリアム殿下と参加する事で騒がれる方が不安だし、心配だ。

そんな事を考えているとウィリアム殿下の驚いた表情がこちらに向いた。

おそらく私がアーサーを気にしていないのが意外だったのだろう。


「本当に良いのか?」

「ええ。それよりも私達の婚約が知られる方が騒がれそうですけどね」

「俺としてはソフィを婚約者に出来た事を自慢出来る良い機会だと嬉しいけどな」


頰を緩め目を細めて笑う彼は本当に嬉しそうだ。彼からの気持ちが真っ直ぐに伝わってくるせいで恥ずかしくなる。


「婚約披露式はいつ催されるのですか?」

「来月だ。知らなかったのか?」

「興味がなかったもので」


婚約自体は知っていたが婚約披露式については誰も教えてくれなかった。

私から聞く事もなかったのでさっぱりだ。

どうでも良いという態度を見せる私が面白かったのか隣で大笑いを始める兄の事は放っておこう。

私の答えに驚き、そして安心したように笑うウィリアム殿下が目の前にいた。


「本当に吹っ切れていたんだな」

「元婚約者として、臣下として幸せになってほしいと思いますが、彼が誰と結ばれようが私には関係ありません」


この国の未来が心配になるのでさっさと偽物の真実の愛から目を覚ましてほしいところだ。


「なるほど。ああ、そうだ。ソフィにドレスを贈っても良いだろうか?」

「ご迷惑では?」

「まさか。贈らせてほしいとお願いしたいくらいだ」


お願いって…。

甘ったるい笑顔を見せてくるウィリアム殿下のお願いを断れるわけもなく私は小さく頷いた。


「お願い出来ますか?代わりに私からも服を贈らせてください」

「ソフィが?良いのか?」

「ええ。是非」


アーサー殿下の婚約者であった時も贈った事はあるが趣味じゃないと着るのを拒まれたのだ。ウィリアム殿下なら着てもらえるかもしれない。そんな気持ちから出た提案だった。


「それは嬉しいな。楽しみにしている」


嬉しそうに目を細めたウィリアム殿下に胸の奥が熱くなったのは何故だろうか。

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