幕間⑨※アーサー視点
私と婚約を済ませたデイジーはすぐに王太子妃教育を受ける事になった。
会える時間は少なくなってしまうけれどお互いの未来の為だ。
彼女も理解してくれるだろうと思っていたのが間違いだったのかもしれない。
問題が起こったのはデイジーへの王太子妃教育が始まって二日目の事だった。
教育が厳しいと私の執務室に逃げてきたデイジーに驚いた。
「もう!嫌!あの教育係、最悪なのよ!ちょっと出来ないだけで手を叩くとかないわ!」
仕事をしている私の横で愚痴を吐き始めるデイジーに頭が痛くなる。
「それは酷いね…」
「ねぇ、あの教育係を辞めさせて!アーサーならそれくらい簡単でしょ?」
デイジーの教育係はソフィアだけじゃなく私の母、つまりは現王妃の妃教育も請け負っていた元公爵夫人だ。
かなり厳しい人だけど、優秀な淑女を育てる事で有名な人物。
私の一存で彼女を辞めさせる事が出来るわけがない。デイジーのお願いなら出来るだけ叶えてあげたいと思うがこれには困った。
「デイジー、彼女は厳しい人だけど優秀な人だ。きっと君を素敵な女性にしてくれるよ」
「でも、なにかあるとソフィア様、ソフィア様ってあの女ばかり褒めるのよ!」
持っていた筆を転がした。
間違ってもソフィアは『あの女』呼ばわりされるような人間じゃない。
幼い頃から王太子妃教育も公務も頑張ってくれていたのにそれを無駄にした私を叱る事もなくただ受け入れてくれた心優しい完璧な女性だ。
「ねぇ、アーサー。あのババア、辞めさせてよ」
潤んだ目で見つめられるが今は鬱陶しく感じる。
いや、鬱陶しくない。彼女は疲れているだけなんだ。慣れない教育でちょっとだけ心が荒れてしまっているだけで、きっとすぐに元の優しいデイジーに戻ってくれる。
「とりあえず父上に掛け合ってみるよ」
おそらく父上は許可をしてくれないだろう。
それでも掛け合った事実があれば彼女は納得してくれるはずだ。
「本当に?ありがとう!」
抱き着いてくるデイジーを受け止めると何故かキスを強請ってくるように目を瞑られる。
公私を混同させるつもりはない。
「デイジー、今は仕事中なんだ」
「ちょっとくらいサボっても大丈夫よ」
「駄目だよ。これは今やらないといけない仕事なんだ」
首を振って断れば拗ねた顔をされた。
「なんでよ!」
「だから仕事中なんだよ。分かってくれ」
デイジーの肩に手を置き引き剥がせば泣き出されてしまう。
疲れる。どうしてこんな事になっているんだ。
「酷いわ!アーサーの馬鹿!」
部屋を飛び出していくデイジー。
追いかける気になれないのは私も疲れているからだろう。
次に会った時にはまた笑顔で会話が出来る。
デイジーは私の真実の愛の相手なのだから。
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