第12話
ウィリアム殿下から聞かせてもらった話は予想外過ぎるものだった。
そもそも隣国の王太子様が五年も前から自分の事を想ってくれていたと誰が予想出来ると言うのだろうか。
「俺はソフィア嬢が好きだ。俺の妻となってほしい」
差し出されたのはアメジストの嵌った婚約指輪だった。
「この二日間で用意した物だから気に入らなかったら売ってくれても構わない。他の物を用意しよう」
彼の気持ちを聞かされ、指輪まで用意されて逃げ道が見当たらない。
唯一の逃げ道だった婚約解消というのも彼には通用しなかった。
「父は…許してくれるか分かりません」
「父様はソフィが望むなら構わないと言っているよ」
そう言って頭を撫でてくるのは兄だった。
隣を見れば諦めろと言いたそうな表情を向けられる。
お父様も許可を出しているの?
「ソフィア嬢」
名前を呼ばれてウィリアム殿下を見ると優しく笑いかけられて胸がどきりとする。
「俺は君の元婚約者とは違う。確かにレイディアントの王太子妃、いずれ王妃となる身として苦労をかけてしまうが必ず君を幸せにする事をウィリアム・サンライトの名にかけて誓おう」
外堀を埋められた挙句、ここまで言われて逃げる人間がいたら話を聞いてみたい。
それでも私は悪足掻きをしてしまうのだ。
「ウィリアム殿下の気持ちはとても嬉しいです。でも、私は…人を好きになる事がどういう事か分かりません。大切にしようと思っていた人には真実の愛の相手を見つけられたと捨てられました。怖いのです…。また裏切られたら私は人を信じられなくなります」
本音を吐露する。
不安な気持ちでいっぱいの私の手を握ったのはウィリアム殿下だった。温かくて安心して、心の奥底がじんわりと熱くなる感覚に不思議と涙が出てきた。
「すぐに俺の事を好きになってくれとは言わない。ただ俺の気持ちを受け入れて愛されてほしい」
愛される?私が?
ウィリアム殿下の言う『愛』が家族愛と違う事くらいは分かる。でも、それがどういうものなのか私は知らない。
もしも彼を好きになって、真実の愛を知ったというアーサーのように正常な判断が出来なくなったら私はどうしたら良いのだろうか。
「ソフィア、俺を見ろ」
俯いていた顔を上げてウィリアム殿下を見る。
「大丈夫だ」
全てを見透かしたような笑顔を信じてみても良いのだろうか。
いや信じてみたいのが本音だ。
「…ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願い致します」
私に新しい婚約者が出来た瞬間だった。
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