幕間⑧※ウィリアム視点
ソフィアに会う前に彼女の兄であり公爵領の管理を任されているルイに会うと苦笑いで出迎えられた。
「父から話は聞いていますよ」
「そうか」
「僕としても妹が傷付くのは嫌です。どうか無理強いはさせないでください」
私と同い年であるにも関わらず彼は大人びて見えた。
妻がいる上にもうすぐ子も産まれるからだろう。
「それでソフィア嬢はどちらに」
「妹は町に向かっています」
「町?」
「お忍びで視察に行くのが仕事…いや、最近だと趣味になっているんですよ」
自ら進んで町に出たがるのか。
俺は舞踏会でのソフィアしか知らない。
普段はどんな生活を送っているのか気になるな。
こちらの気持ちを察したルイに笑われてしまう。
「良かったら殿下も町をご覧になってください。偶然ソフィアにも会えるかもしれませんし、彼女の護衛には殿下の事を伝えておきましょう」
「か、感謝する…」
そのままオズワルデスタの屋敷を後にした。
馬車の中で平民に見えるよう変装した後、町に入る。
「チャーリー。どうやったら自然にソフィアと接触が出来ると思う?」
「うーん、町でも案内してもらえば?」
「案内か…」
「これやるよ。さっきもらった地図。ケーキ屋に印つけておいてやったぜ」
有能なのかそうじゃないのか。ヘラヘラ笑いながら渡された地図を見ると確かにケーキ屋ばかりに印が付けられていた。
俺が甘い物には目がないのは事実だがいくら何でも多過ぎるだろうと苦笑いが出る。
「女性は甘い物好きだ!頑張れ!」
「あ、あぁ…」
よく分からない応援をされてチャーリーが離れいく。一人残された俺はソフィアを探し始めた。
きょろきょろとあたりを見ていると後ろから声をかけられて驚く。
振り向くと探していた人物がそこに立っていたのだ。
変装をしているからかバレなかったのは幸いだが、バレても良いと思っていたあたり少し寂しさを覚える。
迷子になったと嘘をつけば案内すると提案をしてくれる心優しい彼女に罪悪感を覚えたが、それ以上に彼女と共に町を探索出来る事が嬉しくてたまらない。
気軽に話してほしくて提案すればすぐに乗っかってくれた。途中で俺が貴族であると気がついたようだ。
それにしても話し方の癖がレイディアントのものであると指摘されるとは思わなかった。
優秀な人間だから出来る事なのにソフィアは当然だと言わんばかりの表情を見せていた。
ソフィアとのケーキ屋巡りは楽しかった。
何度か「またケーキなの?飽きないわね」と呆れられたがそれでも彼女と過ごす時間は全てが楽しいものだった。
最後に何か贈り物をしようと宝石店を指差すと拒否されたが無理やり押し切った。
最初に行こうとしていた店よりも簡素な店に入ったがおそらく気を使われたのだろう。もくしくは初対面だと思っている男に高級品を贈られたくなかったか。
どちらも正解だろう。
お店の中に入ると冗談半分で指輪を勧めた。もちろん拒否された。私としても彼女に似合う商品ではないと思っていたので贈らずに済んで良かったと思う。
好きな宝石はあるかと尋ねたらエメラルドは苦手だと返された。エメラルドは彼女の元婚約者であるアーサーの瞳の色だったはず。
苦手だと聞いて安心してしまったのは内緒だ。
今度は自分の瞳と同じ色のアメジストはどうかと聞いてみると普通と答えられた。
嫌がられないならとアメジストのついた物を送ろうと商品を見れば俺の本来の髪色である銀色のチェーンのネックレスを見つけた。
これだ、と思う。
貴族界では自分の瞳と同じ宝石が付いた物を贈る事は愛を贈る事と同義だと捉えられている。だからこそ俺の愛を伝えるには最適だと思った。
勧めてみると当然嫌だと言われたがどうしても贈りたかった。戸惑う彼女の横で店主に声をかけて商品を出してもらう。
「付けてみてくれ」
「付けるだけですよ」
呆れたように答えるソフィア。自分で付けようとしていたネックレスを横から奪い去った。
「私が付けよう」
強引気味にネックレスを付けようとすれば諦めたのか大人しくなるソフィアに頰が緩んだ。
ネックレスは決して高級品ではない。しかしソフィアの容姿の良さがネックレスの品質を上げているようにも見えた。つまりよく似合っていたのだ。
思わずうっとりしてしまう程に似合っていた。
「店主これをくれ」
即購入を決めた。
店から出ればすっかり日が傾いており、そろそろお別れの時間だと思うと寂しくなる。
今日一日だけでさらにソフィアが好きになった。
舞踏会では決して見る事のない彼女の姿に新鮮さを覚えつつ愛おしさが募るばかりだ。
やはり婚約者にしたい。
その気持ちが強まった。
そろそろ帰るという彼女を送るといえば貴族である事を隠すのをやめたのか馬車が来ていると返された。
貴族とバラしたのだからネックレスも自分でお金を出すと言われたが却下する。
それは譲れない。
「後日、君の家に行こう。その時に正式に申し込ませてもらう」
そう伝えると意味を理解しているからか戸惑われた。しかし逃すつもりはない。
「また会おう、ソフィア嬢」
そう言って手の甲にキスを贈った。
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