第15話

兄と義姉の間に息子アランが生まれてから二週間近くが経過した。

アランの誕生により、屋敷の中が更に明るくなり幸せに満ち溢れている。

私も新たな家族である甥の存在に幸せな気分にさせられていたのだ。一通の手紙が届くまでは。

手紙の差出人は元婚約者のアーサーだった。

また縁談の話かしら。

彼のしつこさに飽き飽きしながら中身を確認すると最初の部分で固まった。


『愛するソフィアへ』


おかしいですわ。

彼が愛しているのはストーン伯爵令嬢のはず。

それなのにどうして私の名前に付けているのかしら。

きっとふざけているだけだろうと手紙を読み進めていく。さらなる違和感に気がついたのは挨拶の文章が終わった後だった。


『ストーン伯爵令嬢はとんだ阿婆擦れ女だった。あんな女に懸想しかけていたと思うと吐き気がしてくるよ』


ああ、ストーン伯爵令嬢の本性に気が付いたのですね。

どうせ王城内に勤める誰かと浮気されたとかそんなところです。

知りたくないし、知ろうとも思えません。


『でも彼女のおかげで私の真実の愛の相手が誰なのかようやく分かった』


まだ真実の愛に拘っているのですか?

いい加減にしてほしいと呆れていると次の文章で衝撃を受ける事となった。


「私の真実の愛の相手はソフィア、君だ』


アーサーは何を言ってるのでしょうね。

真実の愛を見つけたと言って婚約破棄の願いを出してきたのはそちらでしょう。浮気されたからって戻ってこないで下さい。

手紙を破りたくなる気持ちを必死に抑え込み、続きに目を通す。


『数日後に催される婚約披露式に私の婚約者として出向いて欲しい』


もう婚約者じゃなくなったのにどうして婚約者として出向かないといけないのですか。

そもそも私はウィル様の婚約者として披露式に参加する予定です。

正式発表がされていない為、私がウィル様の婚約者であるとアーサーが知らないのは当たり前の事だ。だからといって元婚約者に頼む事じゃないでしょう。

彼の阿呆っぽさに頭が痛くなってくる。


『君も私と婚約者に戻れるのは嬉しいだろう?良い返事を待っているよ』


グシャッと良い音が部屋に響く。

このお馬鹿さんは何を言ってるのでしょうか。

どうして私が喜ぶと思ってるのですか。

怒りのあまり握り潰してしまった皺々の手紙を眺めているとウィル様がやって来たと侍女が知らせてくれる。


彼にこの手紙を見せるか否かで悩む。

いや、余計な心配を掛けるだけだと手紙を隠そうとするがいつの間にか案内されていたウィル様にあっさりと取り上げられてしまう。


「あ、あの、ウィル様…?」


手紙の内容に目を通し、真っ黒な笑みを浮かべるウィル様に体温が低くなっていく。

怒りのあまり笑顔になっている彼にどう声をかけたら良いか迷っているとこちらに視線を向けられた。


「ソフィ、まさかアーサー殿下の婚約者に戻りたいなんて言わないよな?」


この人も何を言ってるのでしょうね。

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