第16話
「あり得ませんわ」
ウィル様からの訳の分からない問いかけに間髪入れず答える。
一度解消した婚約を元に戻すのは王家と公爵家の家名に泥を塗るような行為です。
仮に問題なく婚約者に戻れたとしても願い下げですわ。
それに。
「私はウィル様の婚約者なのですよ。アーサー殿下の婚約者に戻れるわけがありませんわ」
半ば無理やり結ばれた婚約関係ですが、私を大切にしてくれている彼を裏切るような真似をしたくありません。
強めの口調と言えばウィル様は困ったような笑顔を見せた。
「それもそうだな。すまない…」
「いえ…。失礼な物言いをしました。申し訳ございません」
「ソフィが謝る事じゃない」
苦笑するウィル様につられ私も引き攣った笑顔になってしまう。
場所をソファに移してから会話を続ける。
「改めて悪かった。ソフィが彼を選ぶんじゃないかと不安になって」
「不安?」
自分を裏切り婚約解消した相手と元の関係に戻るのは普通ならあり得ない事だ。
それはウィル様だって分かってるはず。
不安になる必要はないのに、どうして彼は不安になったというのだろうか。
「君とアーサー殿下は十二年間も婚約者だった。ずっと側にいた相手のところに戻りたいと思ったんじゃないかと思って」
ああ、なるほど。
確かに私とアーサーの間には十二年間で作り上げた絆が存在していたと思います。しかし婚約解消の件で無に帰してしまったのですよ。
今の私達の間には王族と臣下という繋がりしか存在していない。
「十二年間で積み重ねてきたものを無駄にしたのはアーサー殿下です。今更戻りたいと思うわけがありません」
ウィル様の目を真っ直ぐに見て伝える。
私の言葉が嘘偽りのないものであると納得してくれたのか彼は笑顔を見せてくれた。
「良かった」
「不安にさせてしまって申し訳ありません」
「ソフィは悪くないよ。悪いのはこんなふざけた手紙を君に送ったアーサー殿下だ」
確かにそうですね。全く迷惑な手紙ですよ。
徐に立ち上がったウィル様は私の隣に座り、腰に腕を回し引き寄せてくる。
一気に縮まった距離に驚く。
「まあ、でも…」
「ウィル様?」
「アーサー殿下のところに戻りたいと頼まれていたとしてもソフィを手放す気はなかったけどな」
「へっ?」
唐突な発言にきょとんとする。
呆気にとられている私に対してウィル様は言葉を続けた。
「もうソフィは俺の婚約者だ。誰にも譲ってやるつもりはない」
「そう、ですか…」
楽しそうに笑うウィル様に胸が締め付けられるような感覚がする。
なんだか頰も熱いし、心臓の音がやけに煩い。
せっかくウィル様が嬉しい事を言ってくださってるのにぎこちない反応になってしまう。
私、変な病気に罹ったのかしら…。
自分の中に芽生えた気持ちの正体を私が知るのはもう少し後の話だった。
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