幕間11※アーサー視点

ソフィアに婚約者に戻って披露式に出てほしいと手紙を送ったのが数日前。

返事はまだ返ってきていない状況だ。

一度は自分を裏切った人間からの誘い。

きっと迷っているのだろう。でも、私には分かるよ。彼女は必ず私のところに帰ってきてくれると分かっている。

ソフィアは私のことを好きなのだからね。


「アーサー!」


ソフィアの事を考えて和やかな気持ちになっていると不愉快な声が廊下に響いた。

振り返り相手を確認すると深い溜め息を吐く。

私の後ろに立っていたのは偽りの真実の愛を植え付けてようとした阿婆擦れ女デイジーだった。

本来なら冷たく突き放しても良いところだ。

しかし不本意ながら婚約者とされている相手を突き放す事を王太子である私が出来るわけもなく偽物の笑顔で対応する。


「やぁ、デイジー」

「もう最近全然会えてなくて寂しかったわ」


嘘つけ。他の男と遊んでいるくせに。

裏切られたと知った後に調べさせた情報によるとデイジーの遊び相手はあの文官だけじゃなかった。他にも既婚者の貴族や城に出入りしている商人相手にも股を開いていると報告を受けている。

まあ、どうでも良い。どうせソフィアが戻ってきてくれると言ったら終わりになる婚約関係なのだから。


「そうか。私も寂しかったよ」

「もう!嬉しい!」

「それよりもデイジー。今日の妃教育は終わったのかい?」


尋ねれば曇り顔になるデイジーにまた逃げ出したのかと呆れる。

ソフィアなら絶対に逃げ出さないのに。


「デイジー、もう妃教育は受けなくて良いよ」


私がそう言えばデイジーは大きく目を開き、そして嬉しそうに笑った。愛おしいと思っていたはずの笑顔。今見ると気分が悪くなる。


「本当に?」


私の両腕を掴み見上げてくる彼女に笑って頷いた。

どうせお前は私の婚約者じゃなくなる。教師の人達にもこれ以上は無駄な事をさせたくないのだ。


「嬉しいわ!」


満面の笑みで抱き付かれるが受け止めてやる気にもならない。

それにしてもすぐに男の体に触れてくるとは。貴族令嬢の風上にも置けない女だ。あと香水の匂いもキツいし不愉快だ。

奥ゆかしいソフィアを見習ってほしい。

阿婆擦れ女がどれだけ努力を重ねてもソフィアのような完璧な淑女になれるわけがないけど。


「ごめんね、公務があるからもう執務室に戻るよ」


やんわりと体を離して笑いかける。

彼女の返事も待たずに背を向けて歩き出そうとすると今度は後ろから抱き締められ苛立つ。


「ねぇ!ちょっとだけで良いの…。構って?」


可愛い思ってやっているのか上目遣いでお願いをされるが気持ち悪い。

男なら誰でもこれで落ちると思ってるのだろうか。


「公務を疎かにするわけにはいかないんだ。分かってくれ」


腕を振り払い、急足で執務室に戻る。

後ろから騒ぐ声が聞こえてきた気がするけど聞かないふりをした。

どうせ騒ぐだけ騒いだら他の男のところに行く。私に対する愚痴を吐いて体で慰めてもらうのだろう。

構うだけ無駄だ。


「悪いけど、これ捨てておいて」


彼女の香水の匂いが移った上着を近くにいた侍女に渡してから執務室に入った。

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