第23話

ウィル様と寄り添い合っているとチャーリーが怠そうな表情で入ってきた。


「ウィリアム殿下、今…。邪魔しちゃいました?」


恥ずかしいところを見られてしまったと私は顔を真っ赤にするがウィル様はチャーリーを睨みつけていた。


「勝手に入ってくるな」

「いや、フール国王からの使いが来たので早めに伝えた方が良いと思って」

「使い?」

「ソフィア様宛の手紙を渡されました。内容は見てませんが国王陛下からの物で間違ありません。危険物もなしです」


チャーリーはかなり優秀な侍従だ。

彼から手紙を受け取って中身を確認する。

要約すると『舞踏会が終わり次第、アーサーの件について謝罪をさせて頂きたい』という内容だった。

陛下達が謝罪する必要はないと思うのですが申し出を断るわけにはいかない。

了承する旨を手紙に書く。

手紙一式を持ってきておいて正解でしたね。


「チャーリー、こちらを使いの方に渡してください」

「畏まりました」


チャーリーが部屋を出て行ったのを確認したウィル様が声をかけてくる。


「手紙を見ても良いか?」

「構いませんよ」


ウィル様は手紙に目を通していく。


「俺も同席して良いのだろうか」

「陛下がウィル様も一緒に来て欲しいと言っていますし、私も一緒の方が心強いです」

「そうか。分かった」


ウィル様を連れてきて欲しいとお願いしてきた理由は婚約の報告をして欲しいからでしょう。もしくは彼にも迷惑をかけてしまった事に対する謝罪。

考え事をしていると部屋の外から争うような声が聞こえてくる。


「なんだ?」


顔を顰めるウィル様。

私達の耳に入ってきた声に驚く。


『ここにソフィアがいると聞いた!出せ!』


長年連れ添ってきた婚約者だ。顔を見なくとも声だけで分かる。

ここに訪れたのはアーサーだった。

誰から私がここにいると聞いたのでしょうか。人目を避けてここまで来たのに。


「ウィル様、いらっしゃったのはアーサー殿下です…」

「何だと…」


ウィル様は眉間に寄せていた皺を深めた。

外からはチャーリーとアーサーの声が聞こえてくる。


『主人の許可なく人を入れるわけには行きません』

『私はフール王国の王太子だ!』

『こちらの部屋にいらっしゃるのはレイディアント王国の王太子ウィリアム殿下です。無礼は許されません』


流石のチャーリーも王子相手だと強く出るわけにはいかないのか追い返す事が出来ないみたいだ。

眉間に寄せた皺を深めるウィル様はソファから立ち上がった。


「ソフィ、どこかに隠れていろ。すぐに追い返す」


彼の言葉に頷いてから仮眠用の寝室に逃げ込む。扉越しにはウィル様とアーサーの話し声が聞こえてくる。


『何の用ですか?』

『う、ウィリアム殿下…』

『チャーリー下がれ』

『はっ』


ウィル様に言われたチャーリーは寝室の扉の前までやって来た。耳打ちで私がここに居る事を伝えたのだろう。


「ソフィア様、出来るだけ静かにしてください」

「分かりました。貴方にも迷惑をかけてしまってごめんなさい」

「悪いのはアーサー殿下です。気にしないでください」


苦笑する声を出すチャーリーに申し訳なくなった。

彼と話していると外からはウィル様達の話し声が聞こえてくる。


『いきなりやって来て部屋の前で騒いで失礼だと思わないのですか?』

『それは……』


低い声を出すウィル様からの怒りを感じ取ったのかアーサーは怯んだ声を漏らす。

ウィル様の言う事は当然の言葉だ。

アーサーの非常識っぷりに頭が痛くなる。


『そ、ソフィア、私の婚約者がここにいると…』

『は?』


馬鹿ですね。

アーサーとの婚約解消の話は既に友好国に伝わっている。それなのに婚約者扱いとはあり得ませんよ。


『貴方とソフィア嬢の婚約は既に解消されていると伺っています。しかも貴方の浮気が原因だとか』


ウィル様の馬鹿にしたような声が聞こえた。

チャーリーが「あの王子馬鹿だろ」と呆れた声を漏らす。

きっと今のアーサーの顔は真っ青でしょうね。


『そ、それは、ちょっとした手違いで…』

『手違い?言っている意味が分かりません。そもそも今日は貴方とストーン伯爵令嬢の婚約披露パーティーでしょう?』

『いや、あの…それも手違いで』

『私を馬鹿にしているのですか?』


怒気で低くなったウィル様の声に対して焦った様子を見せるアーサー。

謝罪をしてさっさと帰って欲しいものです。


『と、とにかく、ソフィアに会わせてください』

『居ませんよ。さっさと自分の控室に戻ってください。貴方にも準備があるでしょう?』

『それは…』

『これ以上騒ぐなら国際問題にも発展しますがよろしいのですか?』


既に問題に発展してもおかしくないところをウィル様の恩情で許すと言っているのです。

アーサーもそれを理解したのか引き下がる。


『も、申し訳ございません…。すぐに戻ります』


逃げるように走っていく足音が聞こえなくなった頃、寝室の扉が開いた。


「待たせて悪かったな」

「いえ…。こちらこそ申し訳ございません」

「ソフィは悪くない。悪いのはアーサー殿下だ」


そうですけど、私がこの部屋に入ったところを見られてしまったのが原因ですし。臣下として謝罪するべきでしょう。


「全くあんなのが次代の国王なんて頭が痛くなるな」


ウィル様の言葉に頷いた。

早くまともなアーサーに戻ってくれると良いのですけど。

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