第22話
「本当に私がこちらの部屋に来て良かったのでしょうか?」
私は現在ウィル様の為に用意された控室で待機をしている。本来はオズワルデスタ公爵家の控室に居るのが正しいのだけどアーサーがやって来る可能性を配慮した結果だ。
隣に座るウィル様に尋ねると笑顔で頷かれる。
「楽にしてくれて良い」
「ありがとうございます」
「気にするな」
父達も誘われていたが家族全員でこちらに来るのは不味いし、アーサーが来る危険性があるので断っていた。
この部屋にいるのは私とウィル様、それから彼の侍従チャーリーだけだ。
部屋の扉を叩く音が聞こえてくる。対応してくれたのはチャーリーだった。
「ウィリアム殿下、ソフィア様、ご報告ですよ」
「何だ?」
「アーサー殿下がオズワルデスタ公爵家の控室に訪れたそうです」
「ソフィを探しに来たのか?」
「みたいです」
王城に仕えている執事から話を貰ったチャーリーが報告してくれる。
本当に私を探しているとは馬鹿な人です。
ウィル様は私の手を握り締めて安心を与えてくれる。
「全く諦めの悪い男だ」
「それからもう一つ。アーサー殿下は国王の話の最中に飛び出て行ったそうです」
「何の話だ?」
「ストーン伯爵令嬢との婚約破棄を認めない件、ソフィア様との再婚約を認めない話をしていたそうですが聞く耳を持たなかったみたいです」
チャーリーが淡々と報告を続けてくれる。
本当にあり得ません。
それと同時に彼の執着が怖くなる。婚約者であった時は執着を見せてこなかったのに。
「チャーリー、少しだけ席を外してくれませんか?」
「畏まりました」
私がお願いすると何かを察したようにチャーリーは部屋から出て行ってくれる。
「ソフィ?」
「ウィル様、怖いです…」
不安を吐露すればウィル様は驚いた顔を私に向けた。
握られていた手に力が籠る。
「婚約者だった頃のアーサー殿下はまともな人でした。でも今の彼はおかし過ぎるのです。何をしてくるのか分からない。怖いです」
普段なら隠し通せる気持ちだった。
それなのにウィル様には知って欲しかった。
守って欲しいと思ってしまったのだ。
「ソフィはもっと気丈に振る舞う人間だと思っていた」
「奇遇ですね。私もそう思っていました」
「どういう意味だ?」
「私が弱さを見せられるのはウィル様に対してだけです」
情けない笑みを浮かべたと思う。
王子の妃として相応しくない姿だと思ったのにどうしてウィル様は嬉しそうに笑うのでしょうか。
「すまない。君が不安になっているのに笑ってしまった」
「いえ…」
「ソフィの特別になれたような気がして嬉しかったんだ」
嬉しそうに笑うウィル様。
私にとって彼は既に特別な人だ。
「ウィル様はもう特別な方ですよ?」
「……全く君はずるい女だ」
髪を撫でられ、頬に口づけを落とされた。
一瞬固まり、そして赤くなる。
「な、な、なにをしているのですか…」
「君が私を翻弄するのが悪いんだ」
訳が分からない。
先程までの不安はどこかに消え去り頭の中が彼の事でいっぱいになった。
「ソフィは必ず俺が守る。だから安心して側にいろ」
自身たっぷりの表情を見せられたら信じるしかなかった。
「信じておりますわ、ウィル様」
「ああ、任せろ」
肩を引き寄せられて彼にもたれ掛かる。
アーサー殿下が城を駆け回り、ストーン伯爵令嬢がよからぬ事を考えている事など私には想像すら出来なかった。
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