第21話
「アーサー殿下とストーン伯爵令嬢が婚約破棄ですか?」
王城に向かう馬車の中で父から教えられた事に目を瞠る。隣に座っているウィル様も驚いた顔をしていた。
「本当なのですか?」
その二人の婚約披露パーティーはこのあとすぐ催される予定だ。だというのに婚約破棄をするとは愚か過ぎる。
何を考えているのだろうか。
「正確にはアーサー殿下が勝手に言っているだけでまだ婚約中だ。陛下が許可を出していないからな」
「そうですよね…」
「しかしアーサー殿下はストーン伯爵令嬢にパーティーに来るなと言ったらしい」
元婚約者の理解不明な行動に頭が痛くなる。
昔はもっとまともな方だったのに。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
「問題はアーサー殿下がソフィを婚約者として紹介すると言い始めている事だ」
「ふざけているな」
ウィル様の低い声が馬車に響く。
それを受けた父は「全くです」と厳しい顔で頷いた。
「もちろんそんな事をさせるつもりはない」
「しかし向こうが勝手に言い始めたら面倒だ」
父の言葉に即反応したのはウィル様だった。
確かにアーサーが勝手に紹介してくると不味い。
パーティーに出ないという選択肢を取れば関わらずに済むがウィル様の婚約者として参加しないわけにはいかない。
どうすれば良いのだろうか。
「ウィリアム殿下、ソフィアの事を婚約者として正式に発表してくれませんか?」
入場の際に私が婚約している事を発表すればアーサーも馬鹿な事をしないと思う。
しかし勝手に発表して良いのでしょうか?
ウィル様を見ると柔らかい笑顔で髪を撫でられた。彼は父に向き直ると静かに頷く。
「構わない」
「ウィル様、本当に良いのですか?」
「私がソフィをエスコートしている時点で察する貴族が多いはずだ。問題ない」
「そうですが…」
「出来るだけ早く発表出来た方が俺も嬉しいからな」
爽やかに笑いかけてきますが本当に良いのでしょうか。
不安は消えない。
「父と母には私から話しておくから大丈夫だ」
手を握られて、力強い眼差しを送るウィル様を見ていたら不安が消えていく。
強張っていた頬も緩み、笑顔になる。
「分かりました」
手を握り合い、見つめ合っているとゴホンとわざとらしい咳払いが父から聞こえてくる。
「あ、あの、私の事は良いとしてアーサー殿下の方はどうするおつもりですか?」
父からの厳しい視線を誤魔化すように尋ねる。
「ストーン伯爵令嬢を婚約者として発表すると陛下は言っていた」
「そうですか」
「それから一年後には婚約解消させるそうだ。二人の婚約期間中にアーサー殿下の新しい婚約者を見繕うと言っていた」
一年後というのは王太子が年に二回も婚約者を変えた事実があってはならないからだろう。酷い醜聞だからだ。
一年も期間があれば良いお相手が見つかるでしょう。
「ソフィがアーサー殿下の今後を気にかける必要はない。今日のパーティーを乗り切る事に集中してくれ」
「分かりました」
何事もなく終われば良いのですけどね。
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