第11話
ウィルと出掛けてから二日が経過した。
この二日間、私の頭の中は彼の事でいっぱいだ。
どこかで見たことがあるような気がするのに全く思い出せないでいる。
「ソフィ、今大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
執務室の扉を叩き、声をかけてきたのは兄だった。すぐに扉を開いて中に招き入れようとしたが首を横に振られてしまう。
「ソフィに会いたいと言っている人がいてね。応接室で待たせているんだ」
兄からの言葉に心臓がどきりと跳ねる。
やって来たのはおそらくウィルだ。
「会わないと駄目ですか?」
「うーん。会うだけ会ってあげたら?」
兄に言われてしまえば会わざるを得ない。それに彼の正体についても知りたいと言うのが本音だ。
すぐに伺うと言って準備に取り掛かる。
十分程で準備を終えて急足で応接室に向かうと部屋の中で待っていたのは予想外の人物だった。
「ウィリアム殿下…?」
ソファに座り笑いかけてきたのは隣国レイディアントの王太子ウィリアム・サンライト殿下だった。
ウィリアム…。ウィル…。
叫び声をあげそうになった。
何故気が付かなかったのだろう。いや、変装していたからだけどそれでも気が付くべきだった。
「ソフィ、とりあえず座りなさい」
「はい…」
意気消沈な私に声をかけたのは兄だった。
彼の隣に座りウィルことウィリアム殿下と向かい合って座る。
「驚かせたか?」
「かなり」
「それは悪かった」
「いえ、気が付かなかったこちらが悪いのです」
気が付く要素はあったはずなのに見抜けないとは情けない事だ。
「さて、ソフィア嬢」
「はい」
「俺が何の話でここまで来たか分かるよな?」
二日前、彼に渡されたネックレスに触れる。
付けて来なければ良かったと後悔したのは彼の瞳が柔らかく緩んだ時だった。
「付けてくれているんだな」
「いや、あの…」
結構気に入ってるのです、とは言えなかった。
目の前にいるウィリアム殿下から視線を逸らせば兄と目が合う。
「貰ったの?」
「は、はい…」
兄の視線が鋭く突き刺さった。
彼も瞳と同じ色の宝石を贈る事の意味を理解しているからこそ睨んでくるのだろう。
「ソフィア嬢、どうか俺と結婚してもらえないだろうか?」
唐突な求婚に頰が熱くなる。
分かっていた。彼がここに来た目的はちゃんと理解していたつもりだったのに言葉に出されると恥ずかしいものがある。
「私は婚約を解消した身ですよ。無理です」
「婚約者がいないなら問題ないだろう?」
「そういう問題ではありません」
首を横に振った。
婚約解消をした令嬢を娶るのはレイディアントの名を傷付ける事になるだろう。
「レイディアント王国の国王陛下や王妃様がお許しになるはずありません」
「それならもう許可を取ってある」
即答されて絶句する。
もう許可を取ってある?いつの間に?
「戸惑っているところ悪いけど、俺の話を聞いてもらえないだろうか」
まずは彼の話を聞いた方が良いだろうと「分かりました」と大きく頷いた。
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