第19話

「ソフィ!」


屋敷の中に入ると満面の笑みを浮かべた母が抱き着いてくる。ウィル様とジョセフから手を離して母の背中に腕を回すと安心する匂いが私を包み込んだ。


「おかえりなさい、ソフィ」

「ただいま戻りました、お母様」

「元気だった?」

「はい。お兄様にもお義姉様にも優しくして頂いて…」

「良かったわ」


私の頬を撫でながら嬉しそうに笑う母に胸の中が温かくなる。母から視線を外すと優しそうな微笑みを携えた父が立っていた。


「おかえり、ソフィ」

「お父様、ただいま戻りました」


母から離れて父に抱き着こうと思ったその瞬間、後ろから腕を引かれて倒れ込む。私を受け止めてくれたのは腕を引っ張った張本人ウィル様だった。


「駄目だ」

「ウィル様、相手はお父様です」

「それでも駄目だ」


拗ねた表情を向けられると諦めるしかありません。父に向き合うと寂しそうに自分の手を眺めていました。

申し訳ない気持ちになります。


「あらあら、すっかり仲良しね~」


揶揄うように言ってくる母の言葉に頬が赤くなる。

仲良くさせて頂いていると思いますけど、第三者から言われると恥ずかしいです。


「あぁ、仲良しだ。なっ、ソフィ」


肩を抱き寄せ笑いかけてくるウィル様は楽しそうで私を揶揄っているみたいで思わず睨み付けてしまった。私達の様子を見ていた父はちょっと泣きそうな顔をする。


「まぁ、素敵!大事にしてもらってるのね!」

「えっ?ええ、そうですね?」


大事にはされていると思います。

ウィル様は意地悪なところもありますが基本的には優しい人ですから。

そう思っているとウィル様が一歩前に出て、両親の向き合う形を取る。


「改めて、俺達の婚約を認めてくださり誠にありがとうございます」

「こちらこそありがとうございます」

「ソフィの事をよろしくお願いしますね」


頭を下げ合う両親と婚約者の姿は擽ったいものがある。

私からも両親にお礼を言う。


「お父様、お母様。私からもお礼をさせてください。ありがとうございます」

「……幸せになりなさい」

「もう十分幸せそうだけどね」


二人の言葉にもう一度「ありがとうございます」と笑いかけた。


「さぁ、中に入りましょう!披露式に向かう準備をしなくちゃ!」


やけに張り切った様子の母に腕を引っ張られ連れて行かれる。

後ろでは父とウィル様が何か話し始めていましたが内容までは聞こえませんでした。


「ねぇ、ソフィ。アーサー殿下の事だけど…」

「はい」

「心配しなくても良いからね」


両親にはアーサー殿下から来た手紙の内容を話してある。

どうやら既に陛下と王妃様に対して抗議したらしい。

結果パーティーでは主役であるアーサー殿下への挨拶をしなくて良い事になったそうです。

私としては嬉しいのですが本当に良いのでしょうか。


「でも、私はウィル様の婚約者ですよ?一緒に挨拶するべきでは?」

「ウィリアム殿下が挨拶している時は私達と一緒に居ましょう」

「……ウィル様がそれで良いなら」

「ふふ、本当に仲良しなのね」


ただウィル様のご迷惑にならなければ良いと思っただけなのに何故か仲良し認定されてしまいました。


「さぁ!張り切って準備するわよ!」


母の声と共にメイド達に囲まれてしまう。


「お願いですから、程々にしてくださいね?」


目立ちたくないので。

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