第25話

「デイジー・ストーン!君との婚約を破棄させてもらう!」


アーサーの婚約破棄宣言により会場中から騒ぐ声が聞こえてくる。

当たり前だ。婚約披露の日に婚約破棄なんて前代未聞の行動なのだから。

しかも女性を突き飛ばすという紳士としてあるまじき行為を一国の王太子が行った。


「あの馬鹿は何をしているんだ…」


ウィル様の低い声が聞こえてくる。

全くその通りだ。会場中から怪訝な表情を向けられながらもアーサーは言葉を続けた。


「デイジー・ストーンは多くの男と肉体関係を持つという不定を働き、婚約者である私を裏切ったのだ!」


事実ですけど他国の王族がいる場で言う事じゃないですよ。

何考えているのですか。


「デイジー・ストーンの代わりにソフィア・オズワルデスタ公爵令嬢を私の新しい婚約者とする!」


待ってください。

あの人は何を言っているのですか。

周囲の視線が一斉にこちらに向けられる。

どういう事だと言ってきそうな雰囲気に卒倒してしまいそうだ。


「さぁ、ソフィア!こっちに来てくれ!」


満面の笑みで私を呼ぶアーサーに怒りが湧いてくる。

折角の婚約披露パーティーを台無しにして本当にあり得ないですわ。


「お断り致します」


はっきりと大きな声で返事をする。

断られると思っていなかったのかアーサーは目を大きく開いた。

むしろどういう考え方をしたら了承してもらえると思うのですか。


「な、なぜ…」

「何故?それはこちらが聞きたい事ですわ。どうして私がアーサー殿下の婚約者にならないといけないのですか?」


ウィル様と婚約していなかったとしてもアーサーの婚約者に戻るのはあり得ない。


「そ、それは、僕はソフィアが好きで、君も僕を好きで…」

「いつ、どこで、誰が貴方を好きだと言ったのですか?私は貴方を好いておりません。そもそも私との婚約を解消したいと言ったのは貴方からでしたよね?」


呆れたように返せば周囲の人もアーサーを馬鹿にしたように見始めました。


「そ、それはここにいる悪女デイジーに騙されて…」

「そうだとしても私達の婚約関係は既に解消されております。元に戻すなど不可能でしょう」

「僕達は『真実の愛』で結ばれている!問題ないはずだ」


真実の愛ですか…。


「笑わせないでください。貴方と私の間に『真実の愛』は存在しませんよ」


だからもう見苦しい姿を見せないでください。

睨みつけるとアーサーは一瞬たじろぐがまだ縋ってこようとする。


「そ、そんな事ない!照れなくても…」

「いい加減してもらえないか?」


私を庇うように立って声を出したのはウィル様でした。彼を見上げれば「大丈夫だ」と笑いかけられて安心してしまう。


「ウィリアム殿下?」

「ソフィア嬢は既に私の婚約者だ。アーサー殿下、貴方の婚約者になるわけがない」


私達が婚約関係にある事は入場の際に宣言されていた為、周囲が騒つく事はなかった。

アーサー殿下は顔を青褪めさせてこちらを見てきます。

本当なのか?と目で尋ねてくる。


「ウィリアム殿下が仰ったように私達は既に婚約しております。ですからアーサー殿下の婚約者となるのは無理なお話です」


はっきりと伝えればアーサー殿下は膝から崩れ落ちた。

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