第13話 バーヤシ印のカラダヨクナールポーション
「本当にこんなものを貰って良いのかい?」
大家に、俺は万能ポーションを十本手渡した。
最近年を取ったせいで体が辛いと言っているのを聞いたからだ。
「こんな高いもの、もらえないよ」
「気にしないでくれよ。薬屋の依頼をやった時に店主からもらったんだけど俺は若いから必要なくてさ」
そう言ったが、もちろんこのポーションは俺の自家製だ。
だが、ポーションの入れ物や箱は、この国で一番有名なバーヤシポーション店のものを、そっくりそのまま再現してある。
余程の目利きでも偽物だとはわからない。
「効き目はバーヤシ印の保証付きさ。そこらの薬屋で売ってるパーフェクトポーションなんて目じゃないくらいに効くはずさ」
俺はその十本とは別に、試飲用として準備しておいた一本を手渡し「飲んでみて」と告げた。
大家は少しいぶかしんだが、未開封なのとバーヤシのラベルを見て信用したのか、封を取るとそのまま一気に飲み干した。
「どう?」
「!!!!」
途端に少し曲がりかけていた大家の背筋がピンと張った。
そして、それまで少し悪かった顔にも健康そうな朱が戻り、それどころか顔に刻まれた皺も少し薄らいだように見えた。
「なんだいこれは……本当にポーションなのかい?」
「どう? さすがバーヤシの最高級ポーションだろ?」
まぁ、作ったのは俺だけど。
「足も腰も、何年も辛かった痛みが全くなくなっちまったよ。こんな奇跡あるもんかね」
「それがあるんだよ」
俺はその場で飛び跳ね始めた大家にそう笑いかけると「それじゃ、明日朝には部屋を綺麗にして出て行くから」と告げて次の目的地に向かうことにした。
後ろから「ありがとうなぁ」という大家の嬉しそうな声が聞こえて、俺の心も嬉しくなった。
「次はフェリスの店だな。ゆっくり行けば朝食の混む時間が終わった頃につくだろう」
フェリスの店まで町を眺めながらゆっくり歩く。
三年間過ごした町だけど、驚くほどゆっくりとその景色を見た記憶が無かった。
大体長屋とギルド、それにフェリスの店や市場くらいしか用事が無く。
だいたい早足で移動していたからだ。
「結構子供も老人も多かったんだな」
ギルドや夜の店ではほとんど見かけることが無くて気がつかなかった。
町を歩く人たちも多種多様で、ハンターらしき人もいれば商人らしき人もいる。
昼間っから酔っ払って千鳥足の人もいれば、道路脇の椅子に座ってぼーっとしているだけの人もいる。
「ゴブリン1000匹を目指して必死にやるより、もっとゆっくり過ごせば良かったのかな」
そうすればハンターギルドで悪目立ちすることも無く、のんびり生きて行けたかもしれない。
いや、それでも万年Fランクでは何れ同じように追い出されていたかもしれないが。
「さぁて、着いた。昼間に来るのは久しぶりだな」
ちょうど朝ご飯の波が終わったあとの店は、出入りも無く静かに佇んでいる。
この店とももうすぐお別れで、二度と来ることも無くなるのか。
そんな寂しい気持ちを押し殺し、俺は店のスイングドアを押し開けて中に入った。
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