第16話 押しボタン付き懐中時計
「お前、まさか
「あまり人に見せたくなくてな」
「わかるぜ」
ギリウスは一つ頷いてから、俺が
「これを俺にくれるのか?」
「ギリウスはよく寝坊して遅刻してるだろ」
「余計なお世話だ。でもいいのか? 高いんだろこれ」
俺が首を振って「俺が自分で作った奴だから高くは無い」と告げると、ギリウスがまた驚いた顔をした。
「この懐中時計は
「それは便利そうだな。しかし
「ああ。昔、魔道具職人だった知り合いに習ったんだ」
「お前、本当に何モンだよ」
驚き疲れたのだろうか、なんだか諦めたような顔でギリウスは呟く。
だが、俺はまだこの懐中時計についての説明を全て終えてない。
「何者って言われても、普通のハンター……だと思ってるんだけどな」
「絶対普通じゃねぇから」
「まぁ、その話はもう良いじゃ無いか。それよりもこの懐中時計の機能を説明させてくれ」
「さっきの目覚まし機能以外になにかあんのか」
俺は懐中時計の蓋を開けて、ギリウスにその盤面を向けた。
「ん? 普通の時計に見えるが……いや、真ん中の丸い所がやけにデカいな」
「そこに気がつくとは」
「いや、普通気付くから。盤面の三分の一くらいの大きさがあるじゃねーか。なんだよこれ」
「ボタンだが?」
俺が作った懐中時計は、蓋を開くと中の盤面の中央に大きな丸いボタンが付いていた。
それこそがこの懐中時計の真の機能を発動させるボタンである。
「いいか、良く聞いてくれ」
「なんだよ、突然真面目な声を出しやがって」
「このボタンはな。ギリウス、お前がどうしても助けて欲しいって時にだけ押すんだ」
「は?」
「ギリギリまで頑張って、それでもどうにもならないと思った時に押すとな――助けを呼ぶことが出来る」
「助け?」
「ああ。まぁ、ものによっては助けられないこともある……かもしれないが」
俺の言葉を疑わしげに聞いていたギリウスだったが、俺の手から懐中時計をつかみ取ると笑顔を浮かべた。
「よくわからんがお守りみたいなもんってことか。ありがたく貰っておくぜ」
「絶対に、本当にヤバイって時だけにしろよ」
「わかったって」
そう言って渡した懐中時計の蓋を開け閉めしたりしつつ、二人で少しだけ話をした。
最後にギリウスが「俺、フェリスに告ろうと思うんだけどよ……もし振られたらこのボタン押して良いか?」と言うのでさすがにそれは止めてくれとだけ告げて別れた。
町を出るまでまだ今日も含めれば二日ある。
これが今生の別れでも無い。
「それじゃあまた明日な」
俺はそう言って手を振ると、今日も依頼を受けないままシショウの待つ森へ向かうために門を出た。
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