第17話 旅立ちの日
翌日、俺は長屋の部屋の荷物を全て収納し、最後に
外から鍵を掛けた後、少し開けておいた窓の隙間から部屋の中に鍵を投げ入れる。
昨日特製ポーションのおかげか「十歳は若返ったよ」と言う大家に、出て行く時はそうして置いてくれと言われていたからだ。
「三年間ありがとうな」
俺は三年過ごした部屋の扉をコツンと叩いて別れを告げる。
「さて、早く行かないとシショウが待ってるからな」
このあとの予定はもう決めている。
町の外に出て、近くでシショウと合流。
そのあと、美味しい魚が獲れるという海沿いの町へ向かう。
フェリスの店で、その町からやって来たらしい男が「新鮮な海の魚は生でも食べられるんだぜ」と言っていた。
それを聞いて以来。実は一度、生の魚料理とやらを食べてみたかったのだ。
その話をシショウにすると。
『シショウ、魚って食べタことない。喰いたイ!』
と、俺の周りを駆け回り始めたので次は海の町に決定したというわけだ。
俺も川魚は時々食べるが、生で食べるのは危険らしいので焼いたり蒸したりしてからしか食べたことは無い。
なのに海の魚は生でも食べられるというのだから、不思議だ。
「それにしてもちょっと早く出過ぎたかな」
まだ朝も早く、空もうっすらと明るくなってきた時間帯だ。
町を歩く人の姿もまばらで、ときおり鳥の鳴き声が聞こえるだけの静寂の中、俺は足を勧める。
少し冷たい朝の気持ちいい空気の中、暫く最後の町の景色を見ながら歩き、ギルドの前にたどり着く。
三年間通ったハンターギルド。
結局追い出されることになってしまったが、受付のシャーリィにはよくして貰った。
ギルマスや他のハンターたちには良く思われてないのが伝わって来たが、彼女だけは普通に接してくれたのが嬉しかった。
俺がもう少し社交的であったなら、もしかすると他のハンターやギルマスたちとも上手く出来たのかもしれない。
だけど今更そんなことを考えてももう遅い。
俺はハンターギルドの建物に小さく頭を下げると、門へ向けて足を速めた。
「よぉ、ユーリス。早いな」
「お前こそ。いつも寝坊してるくせに」
「今日だけは遅れる訳にゃいかんだろ。それに」
門の前で俺を待っていてくれたギリウスが、少し照れながら懐から俺の渡した懐中時計を取り出し――
「この時計のおかげでこれからも寝坊はしなくて済みそうだしな」
そう言って両肩を寄せて笑う。
「さっそく使ってくれたんだな」
「ああ。でも一つだけお前が出て行く前に文句を言っておきたいんだが……」
「文句?」
「この時計のアラームが、音じゃなく電撃だなんて俺は聞いてなかったぞ!?」
ギリウスにプレゼントした懐中時計のアラーム機能。
それはセットした時間になると微弱な電撃が持ち主に放たれるという仕組みになっていた。
「それなら絶対目覚めるだろ?」
「目覚めるけどびっくりして心臓が止まるかと思ったぞ」
「目覚めるどころか永眠する可能性があるのか……それは気がつかなかった」
もし次に同じような物を作る時には気をつけよう。
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