第29話 油断大敵! でも楽勝

「シショウ。そんな所にいたのか」


 俺は瓦礫の山から足下を注意しつつ下りてくるシショウを見上げて安堵の声を上げた。

 やはり一緒に転移していたとホッと胸をなで下ろす。


『景色変わっタ思ったラ、目の前に怖イのがいテ。シショウびっくりして落ちて寝てタ』

「寝てた?」

『頭、ごんっテ。暖かい何か起きたラ、怖いの固まってタ』


 まだ意識がはっきりしていないのか、シショウの言葉はいつにも増して不明瞭で。

 俺はその言葉を解読するのを諦めて、近くまで下りてきたシショウを抱き上げるとギリウスたちのに紹介しようと振り向いた。


「お前……犬相手に何話しかけてるんだ。というかそいつが探してた犬か?」

「近所の一人暮らしのお婆ちゃんも、よく空に向かって話しかけてたわね」


 そんな俺を迎えたのは、何故かとても優しい目をした二人だった。


「いや、こいつは……」


 シショウがコボルトであるとわかったら、そのコボルトを含む魔物の群れに今も襲われ続けている町の住人にシショウが袋だたきに遭いかねない。

 まぁ、俺がそんなことはさせないが。

 なので俺はシショウを地面に降ろすと「ああ、こいつが俺のペットの犬だ」と渋々ながら答えた。


「なかなか可愛らしい犬じゃないか」

「こっちにおいで」


 フェリスがしゃがみ込んで、シショウを呼ぶ。


『この人間は、ゴシュジンのトモダチか?』

「ああそうだ。だから噛むんじゃないぞ」


 足下からそう聞かれ、俺は小さな声で返事をする。

 この姿もギリウスからしたら独り言にしか見えないに違いない。


『シショウ、もう生肉は喰わなイ。生魚は喰ウ』


 たしかにシショウは俺の料理を食べ始めてから森でも魔物や動物を狩って食べることは無くなったと聞いている。

 何故か料理されてない獣肉はとても不味く感じるようになったらしい。

 喋れるように進化した時に味覚も変わったのだろうか。

 なんせ俺の料理のせいでシショウは変異したようなのだ。

 怖くて他の動物や魔物では試していないが。


「シショウちゃんって言うんだ。面白い名前だね」

「シショウって。何のシショウなんだか。でも犬を愛でるフェリスもなかなか……」


 近寄ったシショウの頭や首筋を、わしゃわしゃと撫ではじめたフェリスと、それを見て鼻の下を伸ばしているギリウスに「暫くシショウのことをたのむ」と言い残し俺は瓦礫の山に登り始める。


「何処へ行くんだ?」

「何処へって、そりゃこのスタンピードの元凶を潰しにだって言わなかったか?」


 俺は瓦礫の頂上に登るとブルードラゴンの氷像で塞がれた門扉を補強すべく魔法を放つ。


土魔法ブレシングアース


 その言葉と共に地面から次々と岩の柱が飛び出て凍ったブルードラゴンの体を突き刺し門の内側を全て塞いでいく。


 ズズーン。

  バキャッ。


 そのせいで支えを失ったブルードラゴンの首が落下し、バラバラになってしまったが仕方が無い。

 俺は完全に門扉が石壁で塞がれ、外の魔物が入って来れなくなったことを確認してから振り返る。


「それじゃあ行ってくる。ギリウス、さっき言ったようにポーションと武器と感想を頼んだ」

「ああ、行ってこい。そして【青竜の鱗】を助けてバゴンのオッサンに謝らせてやってくれ」


 俺は無言で片手を上げて応える。


風魔法ブレシングウィンド


 そして風魔法ブレシングウィンドを使い、一気に壁を飛び越える。


「ユーリスッ!」

「ユーリスさんっ!」


 壁を飛び越えようとした時、聞いた事のある声が届く。

 ギルドマスターのグリンガルと、受付のシャーリーが、上を見上げて驚いた顔をしていた。


「ちょっと魔物を倒して【青竜の鱗】も助けてくるんで、それまで町は頼んだよ」


 空から二人と塀の上にいたハンターや兵士たちに声を投げつけ、俺はそのまま風魔法ブレシングウィンドで速度を調整しながら壁に群がる魔物に向かって下りていく。


「スタンピードって初めて見たけど、こんなに魔物がいるのか。これならゴブリン1000匹なんてすぐに達成できそうだな」


 魔法の杖マジックワンドを振り上げながら俺はそう呟き、続いて――


範囲火魔法エリアブレシングティンダー


 壁に張り付いてなんとか破壊しようと暴れている魔物の群れに向けて、広範囲の火魔法ブレシングティンダーを放った。


 ギャアアアアアアアアッ!

  グゴオオオオオオオオオオッ!


 足下の平原に魔物たちの断末魔が轟く。

 何千匹もの魔物が俺の放った魔法によって燃え上がりのたうち回っているのが、石製の壁には火は燃え移らずそのうち炎も消えるだろう。


「さて、これだけ倒しておけばしばらくは大丈夫だろう。でも、これじゃあ【討伐部位】は取れそうに無いな」


 そんなどうでも良いことを口にしながら俺は、まだまだこちらに向かってやってくる魔物の上を風魔法ブレシングウィンドで飛んでいく。

 目指すは前方で暴れている三体のオークエンペラーだ。


 途中、向かってきた空を飛ぶ魔物を何体も打ち落とし突き進む。

 段々近づいてきてわかったが、オークエンペラーという化け物相手に【青竜の鱗】は予想以上に善戦しているということだった。


 さすが腐ってもAランクのベテランパーティだということだろう。

 防御に徹すれば、Sランクの魔物相手でも時間稼ぎが出来るのは大したものだ。


「多分魔素が減ってきて、あの巨体を上手く動かせなくなってきてるのもあるんだろうけど」


 俺は魔法の杖マジックワンドを握りしめ、魔法の準備に入る。


火魔法ブレシングティンダーだと周りの倒れてる木に燃え移りそうだし、氷魔法ブレシングフリーズかな」


 オークエンペラーと【青竜の鱗】が戦っている場所が俺の魔法の射程に入る。

 それと同時に大きな声で俺は叫んだ。


「今からそいつらを俺の魔法でぶっ潰す! 死にたくなければ急いでそこをどいてくれ!!!」

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