第34話 【目 撃 証 言】
「で、その行商人が見たって言うんだな」
シーハンターギルドのギルドマスターであるニャーニョが、朗報を持って飛び込んできた男に問いかける。
「はいアネゴ」
ユーリスが消えた翌日。
聞き込みに行っていたハンターの一人が、市場にやって来た商人から話を聞いたそうだ。
「この町に来る途中、海岸を犬と歩いてた男を見たと確かに」
「昨日の昼すぎか。 その男の姿は詳しく聞いたのか?」
「もちろん。少しヒョロッとした男で黒いマントと濃い茶色のズボン、足下に犬がまとわりついて――」
ハンターが商人から聞いた人物の姿形は、確かにあの日のユーリスの格好と一致していた。
だとするとユーリスは沖で魔物に襲われたり、流されて遭難した訳では無いことになる。
「それでここからが問題なんですよ」
「なんだ、早く言え」
ハンターは話を聞こうと押し黙るニャーニョとギルドにいた男たちに「怒らないで下さいよ」と前置きしてから発現する。
「それでですね、商人が言うにはその男――たぶん間違いなくユーリスなんですが、そいつが突然消えたらしいんです」
「消えた?」
「この町って猫族が多いんで犬族や犬科の動物はほとんど見かけないじゃ無いですか。だから商人も『この辺りで犬を連れてるなんて珍しいな』って思ったらしいんですよ。だから気になって見ていたら……」
ハンターが聞いてきた話によると、ユーリスと思われる男はこのナーントの町へ向かって海岸沿いを犬と歩いていた。
商人が気になって馬車の御者席から見ていると、突然その男の周りがうっすらと光って、男がぼやけたかと思うとその場から忽然と姿を消したという。
「もしやユーリスは何か魔法でも使ったのか?」
「ですが商人の話によると、ユーリス本人も犬も何か突然のことに驚いた様子だったらしいんで、ユーリス本人が魔法を使ったと言うわけではなさそうだと」
だとすれば誰かがユーリスを転移魔法か何かで強制的にどこかに連れ去ったという可能性が高くなる。
しかしハンターたちからすれば、まだまだ青い新人。
筋肉もろくについて無いひょろい青年でしかなく、少し魔法が使えて船を修理出来るくらいの男だ。
獲ってくる魚も新人としては大物が多いが、突出した天才というわけでもない。
「アイツを連れ去って、何の得になるというのだ?」
「困るのは後継者候補を失った爺さんくらいだろ。いや、もちろん俺たちも無茶苦茶心配はしてるけどよ」
この時、ユーリスが以前住んでいた町がスタンピードに襲われたという情報は早馬を飛ばしても何日もかかるこのナーントにはまだ入っていなかった。
なのでそれとユーリスの消失を結びつける者は居なくても仕方が無い。
しかもユーリス自らが作った一方通行の使い捨て転移魔道具が発動したせいだなんてわかるはずもなく。
シーハンターギルドの面々は答えの出るはずの無い議論をそれから数日間続けることになったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます