第33話 【消えた後継者】

「それで見つかったのか?」

「いや、まったくだ。残骸すら見つかってねぇ」


 ナーントの町のシーハンターギルド。

 そこには今、屈強な海の男たちが集まって深刻な顔を突き合せていた。


 それというのも最近やって来たばかりなのに、毎回大物をハントして市場を賑わせている期待の新人が、今朝漁に出かけてそのまま夜になっても帰ってこないからだった。

 シーハンターギルドは基本的に近海でしか漁をしないため、朝早く出港して遅くても昼過ぎには港に全員が戻ってくる。

 それというのも、あまり沖に出るとBランク以上の海の魔物に襲われる危険が出てくるからだ。


 逆に近海であれば魔素濃度の関係もあって、出てもザコ魔物と呼ばれる程度の魔物しか出てこない。

 頑強な船底と屈強な海の男たちにとって敵では無い上に、魔物の方もそれを知っているからか襲ってくることも無い。


 ある意味海という共有財産を魔物とシーハンターは共有して共に生きている。


 だが、新人シーハンターであるユーリスという男は彼ら屈強な海の男に比べて線も細く、どう見ても弱そうにしか見えない。

 なのでもしかしたら【海の掟】を知らない魔物が彼の船を襲って沈めてしまったのではないかと思われている。


 しかも彼の船は海のことをよく知る船大工が監修したとはいえ、元々捨てられ部品取りにされていた船を修理したものだ。

 今現在現役な船と違ってそれほど頑強でもなく、そして一人で操船するために大きさも小さい。


「もしかして沖にでも出ちまったんじゃねぇか? 沖の魔物なら船ごと丸呑みにするような奴もいるだろ」

「あれだけ最初に沖には出るなって言っておいたんだし、それはねぇだろ」

「でもよ。もしかして魔導推進機マジックスクリューの魔力切れで流されたって可能性も――」

「おいおい。アイツはたしか魔法使いじゃなかったか? だったら魔力切れでも補充は出来る」


 既に外は闇に包まれていて船を出すのは危険だと判断したシーハンターギルドマスターであるニャーニョの命令で海岸沿いを歩いて探すしか無くなった彼らは焦燥感を募らせ、そんな無駄な議論を重ねるしか無くなっていた。


 ちなみにニャーニョはニーニャの年の離れた姉である。

 猫族のタチなのかサボりがちで、ニーニャに色々任せて自ら漁に出かけたり、屋根の上で昼寝をしていたりしていることが多いが、ハンターたちには【アネゴ】と慕われ、人望がある人物である。

 彼女が「止めろ」と言えば屈強な男たちであろうとすぐその命令に従うし「やれ」と言われれば命をかけて彼らは動く。


 そんな彼女から「新月の夜は危険だから船を出すのを禁止する」と言われては、いくらユーリスが心配であろうとも彼らは従うしか無かった。


「やっとワシの跡を継いでくれる後継者が出来たと思ったというのに……」

「爺さん……」


 船大工の爺さんことシプラークの嘆きに、その場に集まった一同は皆揃って顔を暗くさせるしかなかった。

 



 そして翌日、ユーリスが行方不明になって一日。

 本来なら漁に出るはずの男たちは、総出で自慢の船を魚を獲るためじゃなく、ユーリスを探すために走らせた。


 そんな彼らの元へ、一つの情報が飛び込んできたのは昼を過ぎた頃であった。

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