第36話 タツタ揚げと捜索願い

「フェリス、オヤジさん。店の中使っていいかな? 使ったあとはちゃんと清浄魔法クリーニングするからさ」


 【青竜の鱗】を追い出したあと、俺は店の中に戻ると厨房で汗を流している二人にそう聞いた。

 というのも、二人が料理をしている姿を見て、俺も何か作りたくなったからである。

 あと、店の隅で腹を空かした犬が今にもフェリスたちが作った料理に襲いかかりそうなのもある。


「かまわんけど何をするつもりだ?」

「ここに来る前に釣った魚を料理しようと思って」


 俺は店の中の机や椅子を収納魔道具マジックバッグに収納しながら答えた。

 そして全てを仕舞い終えると、今度は人が横になって眠れそうな机を取り出す。

 次に収納魔道具マジックバッグから例の巨大魚をその上に置く。


「ちょっと、何その化け物」

「それ……本当に魚か?」


 厨房から顔を出した二人が目を見開いて驚いた声を上げる。

 客席の四分の一を埋めるその巨大魚は、室内ではさらに大きく見えるから仕方が無い。


「カージキって魚でね、ナーントの海で今朝釣ったんだけど……。いきなりギリウスに呼び出されたから」


 そう答えつつ腕の長さほどある包丁を準備する。

 これはナーントの町で船の修理中についでに作ったもので、大型の魚を捌くのに便利なものだ。

 他にも何本か長短ある包丁を並べ終えると一番長いその包丁を手に取った。


「それではカージキの解体ショーを始めます」


 少し二人に見得を切るように包丁を構える。


『ゴシュジン。それ似合ってなイ』


 後ろからのシショウのそんな声は無視して、俺はカージキを色々な包丁を使い分け解体していく。

 本当は新鮮なので刺身にでもしたかったが、海から遠いこの町の人には生の魚は忌避感があるだろう。

 なので、生で食べて一番美味しい部位以外は一口で食べられる大きさに切りそろえていく。


「何を作るつもりだ?」

「カージキのタツタ揚げを作ろうと思って。生だとみんな食べにくいでしょ?」

「俺たちはもう慣れたが、確かに町の奴らにゃきついかもしれんな」

「タツタ揚げってなんなの?」


 俺は切りそろえた白身部分以外を一旦収納魔道具マジックバッグに収納しながら答える。


「この白身に味と衣を付けて油で揚げるだけの簡単なもんだよ」


 次に山盛りになっている白身を机の端に寄せ、空いたところに魔導焜炉マジックスコンロを二つ出して、その上にそれぞれ深底のフライパンを置いた。

 そしてその半分ほどまで油を注ぎ込むと魔導焜炉マジックスコンロ火魔法ブレシングティンダーで火を付けた。



★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇★◇



 そして、タツタ揚げに集中するあまり、フェリスが弁当をギリウスに届けることを忘れていたのに気がついたのは――


「フェリスぅ……俺の弁当まだぁ?」


 空腹のあまり、ふらついた足取りで店にやって来たギリウスの姿を目にした時だった。


「忙しいところ失礼する。こちらにユーリス殿はいらっしゃいますかな?」

「俺に何か?」

「おお、ユーリス殿。実はですな、先ほど連絡がありまして――」


 そして彼と一緒に入ってきたこの町の兵士長から、自分がナーントの町で捜索願を出されていることを知ったのである。

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