第3話 ハンターズギルド
門番が門をしめるギリギリのタイミングで俺は町にたどり着いた。
「おうユーリス。今日は遅かったんだな」
「ああ、ちょっと手間取ってね」
「ゴブリンにか? それともブラッドバットか?」
「ゴブリンだよ。というか邪魔が入って予定より時間がかかったんだ」
門番の男の名は、たしかギリウスと言ったはずだ。
この西門には他に数人の門番が詰めている。
だが、俺に話しかけるのはこいつだけで、他の奴らは俺のことを馬鹿にしたような目で一瞥するだけだった。
「そうか、大変だったな。まぁ間に合ってよかったぜ」
「流石に町の近くはめったに魔物が出ないと言っても野宿は嫌だからな」
「そりゃそうだ」
俺が人用の出入り口から中に入ると、後ろで別の門番が扉に閂をかける音がした。
同時に「あんまり遅くに来られると迷惑だっつーの」というボヤキも聞こえ。
「気にすんな。あいつカミさんと喧嘩してるらしくてよ」
少し嫌な気分になったのが顔に出たのだろう。
ギリウスが小さな声で俺にそう耳打ちをする。
「俺も今日は夜勤で気が重いよ。ところでユーリス、お前は今からギルドか?」
「ああ、いつも通りゴブリンの耳を差入れに行かなきゃいけないからな」
俺は背中越しに手を降ってギリウスにそう答えると、所々に松明の明かりが灯る町の中へ足を進めた。
目指す場所はゴブリンの討伐依頼を受けたハンターズギルドだ。
ギルドには他にも商業ギルドや採取・発掘系を扱うギルドもある。
大きな街では更に細分化され、調理師ギルドや農業ギルドなどもあるらしいが、辺境のこの町にはハンターズギルドと商業ギルドしかない。
「おう雑魚専じゃねぇか。今日も雑魚を狩ってきたのか?」
ギルドへ向かう途中、明らかに酒に酔った男にそう声をかけられた。
だが酔っぱらいの相手をしている暇はない。
ギルドの業務が終わるまで後一時間ほどしかないからだ。
「お前の相手をしている暇はないよ」
「はっ、俺が雑魚じゃないからか」
「言ってろ」
俺は少し歩調を早めてギルドに向かう。
まだ日が残っていると言っても、あっという間に周りは暗くなる。
「っと、
ハンターズギルドに集うハンターと呼ばれる者たち。
百戦錬磨のベテランから、新人まで多種多様だが、
なぜなら
「まぁ俺の場合は自分で作ったから、材料費2万イーエン程度で済んだけどな」
なので、
それを聞いてから、俺もなるべく自分が
周りを確認して、懐から取り出したかのような振りをして
中には26匹分のゴブリンから切り取った耳が詰まっている。
俺はその大して重くない袋をぶら下げながらギルドの扉を開いた。
途端に中から流れ来る喧噪と独特の臭いに俺は僅かに顔をしかめる。
「けっ、雑魚専ユーリスかよ」
「また雑魚でも狩ってきやがったのか」
「バゴンさんたちに散々迷惑掛けてよく顔を出せるもんだぜ」
扉から中に入ると、ギルドに併設された酒場から酒の臭いと共に俺に対する声が届く。
前々からそれほどギルドの会員にはウケは良くなかった俺だが、先日あるパーティに嫌われてから状況が悪化した。
そのことは俺にとってはどうでも良いことなのだが、奴らにはそうでは無かったみたいだ。
俺はそんな奴らを無視して、いつもの一番右端にあるカウンターへ近づく。
そこには女性の受付係シャーリーが引きつった笑いを浮かべて待っていてくれた。
「お帰りなさいユーリスさん」
「ただいま。これいつもの奴ね。今日は26匹しか狩れなかったよ」
「ユーリスさんにしては少ないですね」
「なんか他の魔物が最近増えててさ、ゴブリン自体が減ってる気がするんだよ」
俺は袋の中からゴブリンの耳を取りだしてカウンターの上に並べながら今日の出来事を語る。
耳は現場で血抜きを終えているため、カウンターの上に血は付かない。
最初の頃はべったりとした血がついたまま持って来て、彼女に凄く嫌な顔をされたものだ。
「本当はあと5匹は倒したんだけど――」
「そうですか。確かに最近は少し強めのDランク魔物の目撃情報が増えてますね」
シャーリーはそう答えながらカウンターに並ぶ耳を、手袋をはめた手で一つ一つ持ち上げては確認する。
そして「はい、確かにゴブリン26匹討伐、確認しました」と言って書類を取り出した。
その書類は討伐依頼票と言って、俺が今朝受けたゴブリン討伐の内容が書かれていた。
「はい、サイン受け取りましたので報酬を用意しますね」
俺が討伐依頼票にサインをすると、シャーリーはそう告げて一度奥の部屋に入っていって戻ってきた。
その手には小さな袋が握られていて、それを彼女はカウンターの上に置く。
「今日の討伐報酬は1万32イーエンです」
決して多くは無い――むしろ魔物討伐という依頼では最底辺の報酬だ。
普通のハンターなら日に十万イーエンは稼ぐことを考えると、まさに子供の小遣い程度で。
だが俺のハンターランクでは、その小遣い程度の依頼しか受けることが出来ない以上、選択肢はない。
「ありがとう。貰ってくよ」
俺はその袋の中を確認もせず、ポケットにそのまま突っ込むと「じゃあ」と一言だけ告げてギルドを出ようと振り返った。
すると、ちょうど今帰ってきたばかりなのだろう、一組のハンターパーティがその扉を開いて中に入ってくる所だった。
「……」
「……てめぇ。まだ辞めてねぇのか」
先頭に立つ男は俺を見た瞬間、にこやかだった表情を歪める。
その男こそ、先ほど酔っ払いが口にした『青竜の鱗』のリーダー、バゴンだった。
「あなたには関係の無いことでしょ。それじゃあ俺は行く所があるんで――」
睨み付けるバゴンとその仲間たちの間を抜けて、俺はギルドの外に出ようとした。
だが、その肩を大きくごつい手が引き留めた。
「ちょっと待て」
「なんですか?」
俺は振り返ると真正面からバゴンの瞳をにらみ返す。
だけど年の割に幼いとよく言われる俺の睨みなど、百戦錬磨の男には何も通じない。
「お前、いつまでこの町に居るつもりだ?」
「何時までって。いつまで居るかなんて俺のかってだろ」
そう言い返すと今度は横から眼鏡を掛けたひょろ長のローブ姿をした男が口を開く。
たしかこいつは魔法使いのデリゲルだったか。
「散々私たちを馬鹿にしておいて、まだこのギルドに居座るなんて。どれだけ面の皮が厚いんですかね」
「そうよ。やれ人の視野が狭いだの、やれ人の攻撃が下手だのと」
「バゴンの指示に一切従わず独断専行して危うく味方の攻撃を受けかけたり酷いものでしたね」
青竜の鱗のメンバーが口々に俺を取り囲んで批難する。
確かに俺はバゴンの指示を何度か無視したし、こいつらの動きの悪さを批判した。
だが、それは本当にこいつらの動きや判断が悪いと思ったから素直に口にしただけで。
「本当のことを言って怒られるんじゃ、やっぱり俺はパーティなんて組みたくないな」
「なんだと!」
「貴様っ」
俺が呆れたような声でそう答えると、途端にバゴンたちから殺気が溢れた。
一触即発の空気に、酒場で騒いでいた奴らや、バゴンたちの後ろに控えていた若いハンターが息をのむ。
「お前ら!!! 何をしているっっ!!!!」
その空気を破ったのは鼓膜が破れるほどのそんな怒号だった。
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