第41話 魚神さん
「フゴフガゴフガフ」
「え? 今なんて?」
振り返った魚人が、俺達を見ながら意味のわからない声を出した。
魚人語だろうか?
村に済んでいた時に、語学が堪能な婆さんに色々言葉を教えてもらったが、その中に魚人語は無かった。
そして今聞いたものに近い言葉も無い。
「ブゴガゴブゴ」
「シッパーさん、あの魚人の言葉わかりますか?」
「……あれは言葉では無いぞユーリス」
言葉じゃ無い?
だとするとただの鳴き声みたいなものだろうか。
人間も意味の無い雄叫びをすることがある。
犬もシショウから聞いたが遠吠えにも意味があるものと無いものがあるらしい。
つまり魚人は今特に意味のあることを喋っていないということか?
「おいファッシュ。せめて口の中のものは飲み込んでから喋れ」
「ンゴンゴガッ……んぐっ。ごめんごめん、久しぶりの地上飯が美味しすぎてねぇ。お茶いいかい?」
「さっさと飲め。それに飯はまたあとでそこにいるユーリスに作らせて食べさせてやる」
「えっ、俺?」
突然流暢に話し始めた魚人に驚いていると、続いて自分の名前が挙がったことでさらに困惑する。
「ほほう、ニャーニョさんがご指名するということは余程凄い腕前の料理人なのだね」
「いや俺はハンターで、料理は趣味なんだが」
お茶をすすりながら期待のまなざしを向けてくるファッシュと呼ばれた魚人の虚ろな瞳に俺は僅かにたじろいでしまう。
よく魚の死んだような目は怖いというが、生きている魚人の目もなかなかに不気味だ。
なんせ瞬き一つしない。
「それよりもユーリスもシッパー爺も早く座れ。それとファッシュもさっさと用件を言え」
ニャーニョが胸の前で腕を組みながら、僅かにいらだちを含んだような声で床をドンッと鳴らした。
俺たちは慌てて用意された椅子に座るが、ファッシュの方はマイペースを崩さない。
というか魚顔なので表情が一切わからないのだが。
「あいかわらずせっかちだなぁニャーニョさんは」
「うるさい。十年ぶりに顔を出したからには何か重要な用件があるのだろう?」
遂に組んでいた腕を解いてテーブルに拳を叩き付けたニャーニョに、魚人以外の屈強な男たちが怯えたような表情をする。
付き合いの短い俺には、獣人族とは言ってもそれほど強く見えないニャーニョにどうしてここまで怯えるのかわからないが、それでも出来れば敵に回さない方が良いことくらいは伝わってきた。
だが、怒られているファッシュは何処吹く風で、厨房に向けて「お茶のお代わりくれます?」とか言っている。
大物なのか鈍感なのか。
それとも魚人というのはこういう種族なのか。
「ファッシュ!」
「はいはいわかりましたよ。それじゃあ話しますから首を絞めないでよ」
ニャーニョがどこから何処までかわからないファッシュの首に手を掛けようとした所で、さすがの彼も両手を挙げて降参のポーズを取る。
そしてエラをパクパクと数度ひらめかせてからファッシュは十年ぶりにこの町を訪れた理由を口にした。
「実はですね。うちの
「
初めて聞く単語と、多分それが神と呼ばれるほどの存在なのに栄養失調だというかみ合わない言葉に俺は戸惑いの声を上げる。
「それでこの町だけじゃないんですが、結界が緩んじゃうから近くの港に魔物が侵入する可能性があるってことをお知らせに来たんだ」
「……それは本当か?」
「うん、本当。多分一月以内に最悪の場合は結界が完全に消えちゃうかも」
その言葉に、ギルドに集まった面々は一瞬にして浅黒く日焼けした顔を青くさせたのだった。
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