第40話 ギルマスだけが入れた隠し通路
とんでもないモノが海からやってきた。
そう告げたシーハンターに呼ばれシーハンターギルドにやって来た俺たちが見たのは、入り口からあふれるほどの人混みだった。
「こりゃ入れそうにないぞ」
シッパーが入り口どころか窓まで埋める人の山を見てそう言った。
この町の人達全員がここに集まっているのではないかと思うほどの人垣に「どうしようか」と話し合っていると、後ろから聞き慣れた声がかかった。
「お前たち早く来るニャ」
「ニーニャか。いったいお主は何処から来た」
「来いと言われてもあの人混みじゃ入れないぞ」
何処からやって来たのか、声の主は猫族のニーニャだった。
彼女ら猫族であれば身軽にあの人の山を越えて来れたのかもしれないが、シッパーたちはそうはいかない。
俺一人なら魔法でどうにでもなるのだが。
「ニャニャ。こっち来るニャ」
「お、おい。そっちはギルドと逆方向――」
俺の袖を引っ張って、人の山から離れた場所にニーニャは進む。
後ろからシッパーが「やれやれ」と言った表情で付いてきている。
ちなみに俺たちを呼びに来たシーハンターは、他にも呼びに行く人がいると、造船所からどこかへ走って行った。
慌ただしい。
「ここニャ」
「ここって」
「ニーニャたちの家ニャ」
ニーニャに引っ張られてやって来たのは、ハンターギルドの裏手にある小さな家だった。
どうやらここがニーニャとニャーニョの住んでいる家らしい。
「ちっちゃいな」
「猫族はそんなに広い家は要らにゃいニャ。町中が大きな家ニャ」
そんなものなのか。
猫族の生態にはそんなに詳しくない俺は何も答えられず、ニーニャに無理やりその家の中に引きずり込まれた。
「いいのか? っていうかギルドに行くんじゃ……」
「黙って付いてくるニャ」
ニーニャはそのまま三つほどある部屋の一番奥へ向かう廊下を進み、行き止まりで立ち止まる。
「一つ約束するニャ?」
「約束?」
「このことは誰にも絶対言っちゃだめニャよ」
「このことって?」
「もし言ったらシーハンターギルドから除名させても良いって姉ちゃんも言ってたニャ」
「除名って」
「そりゃまた大層なことじゃのう。じゃが、まぁええじゃろ」
「何をかわからないけど別に人に言いふらすつもりは無い」
ニーニャは俺たちが了承したのを確認すると「じゃあ行くニャ」と言って目の前の扉に自らの爪を伸ばして差し込んだ。
同時にカチャリという音が響き、目の前の壁がゆっくりと開いていった。
あの爪って鍵にもなるのか。
そう感心していると、壁に空いたその穴に先に入っていったニーニャが「早く来ないと閉まるニャ」と急かした。
「それじゃあ行くかのう」
「ええ」
俺は先にシッパーさんを行かせ、自分は後ろを着いていくことにした。
特になにか危険があるわけでも無いが、老人を後ろにするのは少し気が引けたからである。
「それにしても暗いのう。何も見えんわい」
「あ、ちょっと待って下さい」
ニーニャの言った通り、自然と背後の壁が閉まると、目の前の通路は完全に闇に包まれた。
猫族であるニーニャは夜目が利くので問題ないだろうが、普通の人族である俺たちにとっては足下が見えないのは危険すぎる。
「ニャ、早く来るニャ」
俺たちが立ち止まっているのにしびれを切らしたニーニャが近寄ってくる気配を感じる。
「
「ニャーッ!!! 目がぁ!!! 目がぁ!!!」
暗闇を照らすために
彼女は突然目の前に現れた光を見てまぶしさのあまり目を押さえ転がり出した。
「あ、すまん」
「すまんじゃないニャー!」
暴れるニーニャに軽く
多分時間をおけば自然に目は見えるようになっただろうが、今はゆっくりしている場合では無いはずだ。
「ううっ、なんだか見えるようになったニャ」
「それは良かった。それじゃあさっさと先に進もう」
「ところでニーニャよ。この通路は何処へ繋がっておるんじゃ?」
ゆっくりと足下を確認しながらまっすぐ道を進む。
光で照らし出されたおかげで、それほど遠くないところに出口と思われる扉が見えた。
「それはもちろんシーハンターギルドニャ」
「ギルドにそんな通路があったかのう?」
「ニャニャ。ここはギルドマスター専用の通路ニャ」
後で聞いた話によるとこの通路は昔、この町が魔王軍との戦乱に巻き込まれた頃に作られたものだという。
魔王とは、かつてこの大陸の半分を収めていた魔物の王のことだ。
詳しくはよく知らないがおよそ数百年前に魔物を従えた魔王はこの大陸全てを支配しようと侵略を開始した。
序盤こそ一方的に魔王軍が版図を広げていたが、結果的に反魔王を掲げる連合軍によって魔王は倒され、魔王軍も解体。
魔物たちも野性に還ったのだと言われている。
そんな時代に緊急連絡路兼避難路として作られたのがこの隠し通路らしい。
しかも実は町中の他の場所にも町の外にも繋がっているとか。
分岐路も巧妙に隠されていたり、長い年月で埋まってしまったりしているらしいが、その道は代々それぞれのギルドマスターに受け継がれているという。
「姉ちゃん! シッパー爺さんを連れてきたニャ」
どうやら実際に用があったのはシッパーで、俺はオマケだったようだ。
扉から出ると、そこはシーハンターギルドのカウンターだった。
いつもシショウを怖がってニーニャが隠れていたあの場所だ。
どうやら彼女がここに隠れていたのは、もしもの時は通路を使って逃げられるようにだったことに気がつく。
「して、何用じゃ?」
「実はな……ん? ユーリスも付いてきたのか」
「お邪魔でしたかね?」
「いや、別にかまわんが」
ギルドマスターであるニャーニョはそう答えると俺たちを手招きする。
そして隣りに後ろを向いて座る見かけない青白い肌をした男に声を掛けた。
「主要幹部が全員揃ったぞ」
そう告げられた男が振り返る。
その顔は――。
「ぎょ……魚人!?」
その男は初めて見る魚人だったのである。
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