第39話 ニューユーリス号

 俺がナーントの町に戻って十日ほど経った。

 あれから俺はシーハンターギルドのハンターたちに三日三晩宴会に付き合わされたり、シーハンターギルドマスターのニャーニョに絡まれたりと大変だった。


 一応自分が転送されたのは、ニョニレの町にいる魔法使いの仕業ということにした。

 理由はスタンピードの後始末に猫の手も借りたいと、知り合いである俺を強制的に召喚したせいだ。


 そう答えたとき「猫の手ならニーニャでも連れてけば良かったのによ。猫族だし」とガレルが言ったせいでその場は笑いに包まれた。

 酒が入って笑いの沸点が下がりすぎていたのだろう。


 まぁ、そのおかげであまり詳しく話を聞き出されなくて済んだ俺は、船大工の爺さんであるシッパーに泣き付かれて、今日も造船所にやって来ていた。


「遅かったなユーリス」

「シッパーさんが早すぎるんだよ」


 俺は彼が検査をしている船を見上げながらそう答えた。

 その船はあの日巨大魚に寄って潰された俺の船だった。


「それで、そろそろ完成ですかね?」

「そうじゃな。あとは魔導推進機マジックスクリューの調整が済めば海に出せるじゃろ」


 帰還歓迎会が終わった翌日、俺はシッパーのいるこの造船所へボロボロになった船を運んだ。

 収納魔道具マジックバッグに収納していたとは言わなかったが、彼はそのことには何も触れず俺の船を無言で調べだした。


「ふむ。これならなんとかなるかもしれん」

「本当ですか? もしダメなら新しい船を作ろうと思ってたんですが」

「お主、新しい船を作るのには一月以上掛かるんじゃぞ。それに金もな」


 お金は多分素材を売ればなんとかなるだろう。


 スタンピードのあとギリウスが俺の渡した素材をまだ売ってないことがわかったので、忙しい中ハンターギルドの受付嬢であるシャーリーをギルドの裏にある倉庫に来て貰って査定をして貰ったのだ。

 すると俺がそれほどの金額にならないと思っていた素材がかなり高額で売れることがわかった。


 と同時にシャーリーに「これだけ強力な魔物を狩れるのに、どうしてあなたはゴブリンなんかにこだわっていたのかしら」と聞かれ、俺は素直に「依頼を受けられるのがそれだけだったのと、ゴブリン1000匹討伐を目指すのが楽しかった」と告げた。

 その時の彼女の「何を言っているのかわからないわ」といった目は忘れられない。


 ギリウスからも「そういうとこだぞ」と言われたが、何がそういう所なのかもわからないまま、素材は全てハンターギルドの預かりとなった。

 俺は全部ギリウスに上げたものだからと報酬の受け取りを拒否したが、彼も「こんなに貰えない」と一部しか受け取らなかったので、結果残りはハンターギルドの責任に置いて町の復興資金に充てられることになった。


 おかげで俺とギリウスも株も上がったらしい。

 町を出るとき誰もが優しかったのもそのおかげだったようだ。


「金ならあるんだけどね」

「例の魔法使いから貰った詫び金か? まぁ本当に必要ならどんな船でも作ってやるが、今は早く海に出たいんじゃろ?」

「わかる?」

「ああ。ワシの知ってる海の男はみんな船の修理を頼みに来るときはそんな顔をしとるからな。お主ももう立派なシーハンターじゃな」


 そんな会話をしてから今日まで、ずっと俺はシッパーと共に船の修理だけでなく強化も行った。

 船底の強度は約二倍。

 甲板も鉄骨を加え、巨大魚を乗せても大丈夫なほどに強化した。


 重さは増えたが海に浮かべば問題は無い。


「それじゃあ魔導推進機マジックスクリューの調整に掛かるぞ」

「了解だ」


 俺はそう答えるとシッパーのあとについて甲板に登った。

 あの日ボロボロになったそこは見違えるほど美しい木の色に満ちている。


 ニョニレから帰ってくる途中、森で良さそうな木を何本か切って魔法を使って乾燥させてから板に加工したものを作って持って来たかいがあったというものだ。

 ちなみにかなりの量になったので、余った分はシップスとシーハンターギルドへの寄付として今は造船所脇の資材置き場に置いてある。

 これもニョニレの魔法使いが詫びにくれたものだと彼らには伝えていた。


 何はともあれ、これでもう一度海に出られる。

 新鮮な魚は自分の手で釣り上げたいのだ。


「ユーリス、魔力を流してくれ。お主の魔力に合わせて調整する必要があるからのう」


 甲板の美しさに気取られていると魔導推進機マジックスクリューがある船の後方からシッパーのそんな声が聞こえた。


「ああ、今すぐやるよ」


 俺はその声にそう応えると操作盤の上に手を置いて魔力をゆっくりと流し始め、試験運転を開始しようとしたその時――


「シッパー爺さん! 大変だ!!」


 造船所に突然飛び込んできた男のそんな声に中断させられたのだった。

 

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