第43話 魚神と料理人の物語
「ご飯?」
「うん、そう。
魚が魚料理を美味しかったという光景は非常にシュールだ。
「えっと
「もちろん。僕たちの主食は魚と海藻だからね」
よほど俺たちが不思議そうな顔をしていたのだろう。
ファッシュはまぶたのない目をギョロつかせながら言った。
「共食いとか思ってるでしょ?」
「ああ」
「それは大きな間違いだよ。わかりやすく言えば君たちだって豚や牛や鳥を食べるでしょ? それと一緒さ」
ファッシュたち魚人の視点から言えば、俺たちが同じ地上で生きる生き物を食べるのも、彼らが同じ海で生きる生き物を食べるのも一緒だという。
言われて見れば確かにその通りだ。
「君たちと同じように海の中には魚を養殖してる君たちの言う【牧場】みたいな場所も一杯あるんだよ」
「そうなのか」
「一度見に来ると良いよ……って、地上の生き物は海の底には来れないんだっけか」
「魔法を使えば行けると思うけど、海では試したことが無いからなぁ」
多分風魔法と水魔法を使えば可能だ。
昔、村の近くを流れる川で村の爺さんから教わった方法がある。
それを使えば長時間水の底に潜ることも可能だ。
だが、川と海では違う部分も多いだろうし、いまいち自信が無い。
「お前たちが共食いだろうが何だろうが関係ないが、そろそろ
俺とファッシュの会話に、さすがに焦れた様子のニャーニョが割り込んできた。
そういえば今一番重要なのはその話だった。
俺は口をつぐむと、話の主導権をニャーニョに譲ることにした。
こうやって自らの興味があることから一歩引いて聞き役になることが出来るように成ったのは成長したところだろう。
まぁ、既にそれを忘れてファッシュと長話をしかけてしまったわけだが。
「地上で食べた魚料理が美味しかったから
「うーん、言葉通りの意味なんだけどね」
ファッシュは少し生臭い首を傾けると、器用にヒレを体の前で組んで話し出した。
「さっきも言ったけど、昔この町にが村だった頃、
当時まだファッシュは生まれていなかったので
今もその頃も
だが、海の底で魚人によって作られる料理は変化が乏しく、いつもいつも同じような物ばかり。
時々地上の民がお供え物として海岸の神殿に捧げる食べ物に比べてあまりに味気ないそれに、ついに
「それで、いつも供え物をしてくれる人族の村にお忍びで行って、食事をしようと思ったらしいのさ」
海の底には魔物にやられたり、嵐に巻き込まれたりなど色々な理由で地上の財宝が沈んでいた。
なのでその財宝の一部を持って村に向かうことにしたのだという。
「でもあの魚……
せっかく美味しいものを食べるのだから、暫く食事を抜いて思いっきりお腹が空いた状態で食べに行けば、何倍も美味しく食べられるのでは無いか。
そう考えたらしい。
「で、フラフラになるまで食事を取らないで村に泳いでいったんだけど」
「お腹が空きすぎて行き倒れみたいになって打上げられたというわけか……下らんっ」
ニャーニョがバッサリと言い捨てると、ファッシュは怒るどころか「だよねぇ」と同意するように頭を上下させた。
仮にも「神」と言われているような者が、美味しいものが食べたいためだけに断食して死にかけるとは。
ギルドの中にいる面々も、緊張の面持ちから呆れたような表情に変わっている。
皆、ファッシュの話を聞いて同じ気持ちなのだろう。
「それでここからがいい話なんですよ」
「いい話?」
「その時にね、
浜辺に倒れていた
かれは
その男は遠くから魚を求めてやって来た旅人だったらしく、他の村人のように
どうやら男は料理人だったらしく、本来は魚料理の専門家とのこと。
彼も共食いになるだろうとそれは避けていたらしいが、
「そりゃ
「ま、そんなこんなで男が仮住まいにしていた家で色々料理を教わったらしいんすよ」
それからしばらく。
男も遠い地からやって来たという彼の同胞が村まで迎えにやって来たために別れることに成ったという。
「ちょうど魔王が軍を上げた頃らしくて、海の方も騒がしくなってたみたいで、結局ドタバタの内に
そして魔王軍からの正式な申し出があったが、村人……その男への恩義があった
だが、魔物である以上地上の人々の味方に成るわけにも行かず、結果自らはどちらにも付かないが村を中心にした沿岸部の安全だけは守るという契約をしたわけである。
「そんなことがあったのか。ギルドの記録にも
「本人が言ってるんで間違いないとおもいますよぉ」
「で、その過去の話はわかったが。それと今回のお前の訪問はどんなつながりがあるんだ?」
ニャーニョのその言葉に、ファッシュは多分きょとんとした表情を浮かべて答えた。
「言いませんでしたっけ? 栄養失調だって」
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